僕自身も辛くなりながら静也と向き合っていました
――アクションシーンはやはり締まるし、カッコいいなと感じました。
この『静かなるドン』という世界では、そういうメリハリとか緩急が一番大事にしなくてはいけないポイントでした。だからふざけるところは思いっきりふざけるし、シリアスなところは本気でシリアスになって。ホント、二重人格を演じているくらいの違いがありました(笑)。
――ちなみに、アクション練習は結構したのでしょうか。
それがほとんどなくて。現場に入って撮影前にちょっと打ち合わせをして、とりあえずやってみるみたいな。周りの方が皆さん、アクションに慣れている方が多かったので、すごく早かったです。そこは僕も苦戦はせずにできました。
――演じていて印象に残っているシーンは?
抗争で静也にとって大切な人を亡くすシーンがあるんですけど、そこは静也としてもそうですが、僕にとってもしんどかったです。静也はもともとヤクザが嫌いでなくなればいいと思っているけど、それはなかなか難しいことだから、だったら自分がヤクザというものを変えて、世間に受け入れてもらえるようにしたいっていう、強い想いを持って動いてる人なんですね。
だからこそ、いろんなことを考えなくちゃいけないし、どちらを選ぶのか選択を迫れることも多いんです。どちらを取ればいいのか、どちらも取ることができないという悩みの中で、その大切な人を失ってしまう。
そのときの静也がどう感じるのかを考えたら、自分自身もどんどん辛くなっていて。そこは本当にいろんなことを考えながら演じたので、印象に残っているシーンの一つではあります。
――今、お話を聞いて改めて思いましたが、静也って常に葛藤していて、心情的には辛い場面が多いですね。
総長としてトップに立ってはいますけど、状況としてはずっといろんなことに挟まれているんですよね。僕もわりとハプニングが起こったりすると、誰かの間に入ることがなぜか多いです(笑)。だから静也の感情も理解できましたし、僕自身も辛くなりながら静也と向き合っていました。
――そんな中で、筧美和子さんが演じる秋野明美とのシーンは、キュンとしますし、ほっこりもしました。
この撮影期間中は、ほとんどの時間を黒いスーツを着た強面の方々と一緒に過ごしていたので(笑)、筧さんとのシーンは安心しました。筧さんが現場にいるだけでちょっと気持ちが温かくなるんです。昼の静也の恋心も一つの見どころなので、楽しみにしていただきたいです。
――ただちょっと複雑な想いはありますよね。明美のことを好きなのは昼の静也なのに、明美が好きなのは夜の静也という。
だから静也は秋野さんに対して、自分で自分のことを「やめたほうがいいですよ」とかって言うんですよね。けど秋野さんを演じるのも大変だったと思います。いろんな感情を巻き起こさないといけないシーンも多かったので、そんな筧さんを横で見ながら「大変そうだな」って思っていました。
――伊藤さんから見て、静也と明美の恋愛はどう感じていましたか。
静也の気持ちはわかるなと思っていました。秋野さんに対して、昼の静也が素直な反応で、夜の静也は好きという気持ちを押し殺していて。それぞれの気持ちはわかるけど、それを一人の人間がやるってことが大変ではありました。
――映画を観てくださるお客さんにはどんなところを楽しみにしてほしいですか。
『静かなるドン』はいわゆる任侠ものになるので、過激なシーンもあるんですけど、任侠ものだから観ないとはならないでくれたらなと思います。
どうしても世間の端っこに追いやられてしまう世界だと思いますし、この作品も任侠が素晴らしいと言いたいわけではなくて。
ただ、任侠の世界の中にある義理人情とか、(総合プロデュース兼猪首硬四郎役の)本宮(泰風)さんもおっしゃってましたけど「弱気を助け、強気をくじく」という日本人の心とか、筋が通っている感じとかは、学ぶべきところじゃないかと思うんです。そういう今はちょっと忘れかけてしまっている思想や考え方はあるなって。
任侠ものにはどうしてもとっつきにくい部分があるのは理解できるんですけど、意外とちびっこから、大人の方々まで楽しく観ていただけると思います。任侠ものというのが観ない理由であれば、そこはあまり考えずに観ていただけたらうれしいです。