5年後に聴いても色あせないものを作りたい

撮影/コザイリサ

――真治は自分の漫画なのに周囲の思惑から自分の思うような作品を書くことができないジレンマに苦しみます。どんな仕事でもあるとは思いますが、特にエンターテインメントのお仕事は自分の理想通りにすべてが進むことはほぼないですよね。理想と納得の狭間で、どこかにラインを引くことになると思うのですが、山下さんの中にその基準のようなものはありますか。

難しいですね。全部に当てはまるものでもなかったりするのですごく難しいな。それに納得すらできていないこともありますから(苦笑)。

例えば、この作品に関しても自分ができる枠の中では100%というか、100%を超えるものはやったけれど、それでももっと時間があったらなとか、もっと製作費があったらなとか、望めば望むだけキリがない。もう仕方のないことなんですよね。

だからそのときの、その状況で自分が100%以上のものを出せたということで、どこかで納得しているのだと思います。

ただいつも満足はできていないです。満足ができないから次にまたやりたいというところにつながっているのかもしれないし。もし満足をしてしまったら止めてしまうのかもしれない。満足したことがないからちょっとわからないけど(笑)。

――そのような中でも、音楽活動の方がご自身の意志も反映しやすく、理想に近づけることも多いのかな?とも思うのですが。

そうですね。けどそれもまた難しいですね(苦笑)。自分の理想からはまだまだ遠いところもあるし、「もっと時間があったら」とか、欲が捨てきれない。欲を捨てたら終わりなのかもしれないけど。

撮影/コザイリサ

――一つ作品を作ると、さらにまたその上の段階が見えてくるような?

一つ何かが出来上がった瞬間に、僕自身はもう次に向かっているんです。だから今の段階で聴くと「これで大丈夫だろう」と思う曲も、半年後に聴いたら「こうすれば良かった」ってなる可能性が高い。

だからそんな中でも、10曲のうち1曲とかでもいいから、5年後に聴いても色あせないものを作りたいという想いはあります。そういう欲求で作り続けているというのもあるかもしれないです。

今回のアルバム(『Sweet Vision』7月19日発売)に関して言うと、コロナ禍もあってずっとライブができていなかったのが、久々にツアー(『TOMOHISA YAMASHITA ARENA TOUR 2023 -Sweet Vision-』8月より3カ所6公演開催)ができることになったので、そこにめがけて作れたのは良かったなと思っています。

ただそれも、アルバムが出来たからツアーをやる方が理想の流れではあって(苦笑)。次はそうできたらいいなって思っています。

――理想は尽きないですね。

そうですね(笑)。けど今回のようにツアーのために急いでつくらないといけないという想いがあったから、全力を注げた可能性もあるので、ホント、正解はわからないんですけどね。それぞれの収録曲に関しては、ライブに向けて作ったものもありますし、以前から作っていたものもあります。

撮影/コザイリサ

――特に締切がないときに作る曲は、どんなふうに生まれるのですか。

仕事に余裕があるときにプロデューサーさんの家に行って一緒に制作をしておいたものを使ったり、自分からプロデューサーさんに「こんな曲がやりたい」というのを言葉で想いを伝えて、それを形にしてもらったり、あとはデモを聴いて「これがいい!」っていうケースもあるし、いろいろありますね。

――「こんな曲がやりたい」とか、「これがいい!」というのはご自身のモードですか? それとも流行りやシーンの流れなども汲むのでしょうか。

今の自分のモードです。どんなものが流行っているかとかはわかっていますけど、変わるのも早いし、そういうことを気にしていたら自分に迷いが生じてしまうので。それに人それぞれ好きな音楽は違いますから、僕は自分にハマるもの、自分のフィルターを通して生み出すことが合っているのかなと思っています。


写真撮影中、ご自身でセレクトした音楽をかけていた山下さん。洋楽だったので普段から洋楽を聴くことが多いのかとお尋ねすると、「洋楽も邦楽も聴きますよ」とのお返事で、サブスクのプレイリストなどを利用してジャンルにとらわれずに音楽に触れているそうです。

映画はもちろんですが、ラストに流れる山下さんの歌声がとても心に響きます。エンドロールが終わるまでじっくり楽しめる作品です。

ヘア&メイク/北一騎(Permanent) スタイリスト/百瀬豪

作品紹介

映画『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』
Prime Videoにて独占配信中
ディレクターズカット版 7月7日(金)より劇場公開