日本は世界最古級の国だからこそ、SBNR思考をリデザインできる

─── SBNRについて調べてみると、例えばサウナや旅行を楽しむ、神社仏閣に訪れるなど、マインドフルネスや「整う」に分類されることも、「SBNRな選択」に分類できるという記述を多く見つけました。そう思うと、私も知らず知らずのうちに「SBNRな選択」をしていたと言えそうです。

サイレントシフトとでも言うのでしょうか。多くの人が気持ち良い、心地良いと思って知らず知らずに選択していること。それをどうやって科学してエビデンスを求めながら、どんな仕掛けをしていくのかを考えることも、僕ら価値デザイナーの仕事です。

元々、米国でSBNRという考え方が生まれた背景には、宗教離れという社会現象を研究する必要性があり、そこで誕生した言葉でした。しかし日本の場合は、そもそも既存の社会的な価値観が、いろいろな文化をミックスさせて発展してきた側面があります。多様性が共存することが文化の特徴になっているんですね。

SBNR層といわれる人々の多くが、宗教の垣根を超えて、多様な価値観に強い関心を持っています。日本文化は八百万の神々をはじめ、多様な価値観が組み合わさり構成されています。私は世界のSBNR化に対応をした新しい「軸」での日本文化の編集力が必要だと考えています。

───SBNRシフトする時代における日本文化をどう編集すれば良いのか。

SBNRの価値観が世界的に普及しているわけですから、国際社会で日本の強みをデザインしていくために「日本版SBNR」という考え方があっても良いと考えています。

私の視点では「S:Spirituality 心のものさし」「B:Body 身体的な調和」「N:Nature 自然との共生」「R:Relationship つながり価値」がこれからの時代の価値デザインの在り方だと思います。日本の有形無形の文化を世界に発信し、共感を得ていく上での指標としてぜひ「日本版SBNR」を活用してみて下さい。

─── 渡邉さんは最近、よくインドネシアに行っていると聞いています。

はい。月1回のペースでインドネシアに出張しています。人口2.8億人、世界最大級のイスラム教の国で、平均年齢29歳、毎年350万人が生まれる国です。

日本との共通点は島が多いことですね。日本は14125島、インドネシアは13466島あります。「ネシア」とは「島々」という意味で、近くにはミクロネシア、メラネシアなど島をベースとした国々があります。

これら「ネシア」という名がつく国々の多くは、島独自の多様な価値観が共存していて、SBNR的なダイバーシティが存在しているように思います。

地政学的にランドパワー(国家が支配下に置く陸地を整備、活用する潜在的、顕在的な能力の総称)とシーパワー(国家が海洋を支配し、潜在的、顕在的に活用する能力の総称)という対極の言葉があるように、大陸では陸地を統治しないといけないので、宗教をはじめとした固定の思想がないと統治が難しい側面もあります。

しかし、島国ではそれぞれの独立した文化が保たれやすいため、それに伴って複数の思想が共存しやすい地形になっているのかもしれません。例えば、インドネシアの国家宗教はイスラム教ですが、同時にバリ島の宗教や仏教の存在も大きいです。生活の知恵として「お互いの信じているものを理解しよう」という考え方が根付いているのだと思います。

世界最大級の島国である日本も、既に実現されている多様な価値の共存する国という側面を活かして、SBNRやこれからの社会に対応した、いろいろなものをリデザインできるんじゃないかなと考えています。

─── 渡邊さんは地方創生にも注力されています。SBNRは地方でも活きてくる価値観なのでしょうか?

大いに紐づいていると思います。例えば僕の出身地、栃木県は、東北と東京に挟まれて独自の文化を発展させた地域です。

小さなコミュニティがたくさんあって、かつてはとてもユニークな地域性を持っていたのですが、高度経済社会の後に生まれた僕は、その栃木県独自の文化がどんどんと失われていくのを見て育ちました。

その光景を見て「なぜなんだろう」「どうにか出来ないのかな」と漠然と感じていましたが、当時はうまく言語化出来なかったんですね。

それが今、価値デザイナーとして様々な経験を積み重ねていく中で、「元々、それぞれの地域に存在していた独自の文化を、世界の潮流に合わせて再編集してデザインしていくことによって、地域が本来持っている力を活かして元気を取り戻すことが出来るのではないか」と考え始め、いまでは確信を持って活動をしています。

外国からのインバウンド需要の伸びや、輸出拡大など、これまで内需型だった日本経済が次第に外需型に変化しています。

クールジャパン戦略も12年目を迎え官民が一丸となって日本のソフトパワーを活性化しています。こうした大きな潮流を地域の活性化にダイレクトに繋げてゆきたいと考えています。地域文化をリデザインするためのヒントとして、僕はSBNRに注目しています。

インタビュー後編に続く