いつかこんな恋愛ができたらいいなって
――湊人はどの段階から雪乃に惹かれていったと考えていましたか。
二人の中にピアノという共通点があって、最初は「不思議な子だな」とか、気になってはいるものの、本当の意味では心を開き切れてはいなかったと思います。
それが湊人の家のカフェにあるピアノで、二人で連弾をしたときに、開くかどうかを悩んでいたところから、完全に開けた感じはしました。初めて湊人が自分自身のことを打ち明けて、それを受けて雪乃が「一緒に弾こう」と誘ってくれるところです。
――京本さん自身は、湊人が雪乃に惹かれていく感情をどのように思っていましたか。
雪乃はとても魅力的ですよね。厚かましくならない、程よい感じで心をノックしてくれる。だから湊人も拒絶する気は起きない。しかも、雪乃はそれを意図してやっているわけではなくて。だからあの二人の空気感はすごくナチュラルだし、湊人が惹かれていくのも必然だと思えました。
例えば、授業をサボってゲームセンターに行くとかは、学生ならよくありそうなことだし、傍から見たら些細なことだけど、二人にとっては特別なもので。そのときの湊人の気持ちはすごくわかるなって思っていました。
自然体で恋愛ができていて、理想ですね。あの感じって友達の延長線上じゃないですか。それに、あんなドラマティックな出会い方もなかなかないですよね。いつかこんな恋愛ができたらいいなって思いました。
でも、あそこまでドラマティックじゃなくても、きっと身近に理解者や、わかり合える人はいるとは思っていて。あとは自分が気づけるか、向き合えるか、なのかなとも思います。
――湊人が雪乃に惹かれる心情を、芝居ではどう表現したいと思っていましたか。
二人の関係は恋愛ではあるんですけど、ただキュンとかを求めているだけでもなくて。湊人が成長する上で雪乃はよき理解者であり、より深い部分で繋がっている。だから、単に「一緒に居たい」という想いではなく、いろんな意味でのパートナーで、親友に近い感覚も表現したいと思っていました。序盤から恋愛の好き嫌いだけでなく、そういう意味での必然性を感じていました。
――二人が海辺ではしゃいでいるシーンなどはとてもかわいかったです。
あれだけベタなことはなかなかできないですよね(笑)。二人で海に行くことはできても、海に入ってキャッキャするのは、僕はできないので。すごくピュアでいいなって思いました。
びしょ濡れになって、湊人の家で乾かすという流れも、そんなエピソードは子供のときくらいじゃないですか(笑)。あんなふうに夢中になって、童心にかえれる相手がいるのはうらやましいですね。
――デートシーンで印象的だったところは?
ゲームセンターや、自転車で二人乗りをするところとか、たくさんあります。撮影のときの記憶をたどると、空き時間も琴音ちゃんとそのままゲームセンターで遊んだりしていたので、撮影中なのか、空き時間なのか、どっちの記憶だっけ?と(笑)。すごく和気あいあいとした雰囲気でした。
――古川さんとは「きょも」「こっちゃん」とお互いにあだ名で呼び合っていたそうですね。
僕はヒロインの方から「寡黙なのかな?」って思われることが多くて気を遣われるので、いつも作品に入ると、自分から意識して話すようにしているんです。
それで、毎回、どんなあだ名で呼ばれているかを聞くんですけど、琴音ちゃんが「こっちゃん」と呼ばれていると言うので、僕はファンの方から「きょも」って呼ばれていることを伝えて、お互いに「きょも」「こっちゃん」と呼び合うようにしました。
お会いして2日目ぐらいには、その呼び方になっていました。今、放送中のドラマ『お迎え渋谷くん』(関西テレビ)の現場でもあだ名で呼び合っていて、そういう距離の縮め方はよくしています。
――湊人の雪乃に対する視線や仕草はとても自然でした。
監督がとても丁寧に段取りをしてくださって、1、2回やってみてすぐに本番という流れではなく、僕と古川さんがお互いにスムーズにできるところが見つかるまでやらせてくださったことは大きかったと思います。
例えば、雪乃がピアノを弾いているところに、湊人が加わって連弾になるシーンは、湊人が少しずつ距離を詰めていくんですけど、「雪乃がここを弾いているときは、湊人はまだこの位置に居ないほうがいいね」とか、「この辺りまで来たら、雪乃のことをチラチラ見始めよう」と、緻密に段取りをして決めていきました。
湊人のピアノに対する気持ちの揺れ動きとか、雪乃との距離感に、監督がとても丁寧に向き合ってくださったので、演じる上ではスムーズに気持ちをつなげることができました。
――細やかな演出がされていたのですね。
「正解」を持っている監督さんでした。もちろんこちらに委ねてくださる形の演出もうれしいんですけど、僕自身そんなに芝居の技量がないので、「正解」を示してもらったほうが自分としては迷わないでいられます。
時には、僕から「ここはこうしてみたいんですけど」というような提案をすることもありましたけど、そういうときも「じゃあやってみよう」なのか、「やっぱり元のほうがいい」なのか、的確に答えを出してくださいました。
だから、僕もその答えに対して、「だったらプランを変えよう」とか、修正もやりやすくなるので、すごく助かりました。