ピアノというツールで分かり合えたり、打ち解けあえたりするのは素敵

©2024「言えない秘密」製作委員会

――今回、ピアノの演奏に挑戦されていますが、自分からやりたいという想いがあったのですか。

これには少し経緯があって。最初にマネージャーから、特にこの映画の話とかではなく「ピアノ、弾けるよね?」って確認をされたんです。そのときに、独学だし、コード弾きでロックやポップスがちょっと弾けるくらいで、クラシックは無理って答えて。

それから数週間、何の音沙汰もないから「あれって何の話だったんだろう?」思っていたところに、この映画の話が来て、資料を見てみたら「ピアノ」と書いてあったんです。「なるほど、このために聞いたんだ」と理解したんですけど、「できないって言ったのにめっちゃクラシックやん!」ってなって(笑)。

そのあと、わりとすぐに監督と顔合わせする機会をいただいて、そこで監督からも「弾いてもらいたい」と言われたので、「頑張ります」と答えました。とにかく練習が必要だと思って、早めにできるようにお願いをして、撮影の3ヶ月前から本格的に始めました。

――改めて、ピアノと真剣に向き合ってみてどうでしたか。

ピアノには美しいイメージはありましたけど、それ以外にも力強さとか、表現の幅が広くて、やりがいを感じました。発見がいっぱいありました。

――大変だったことは?

ペダルの使い方ですね。グランドピアノの屋根の部分を開けたまま演奏するシーンが多くて、そうするとペダルを踏んでいるか、いないかが見ている人からわかってしまうんです。特にピアノも含めた全体を撮るカットだと、足の動きと合っていないといけない。

正直、もう手の練習だけでいっぱいいっぱいで、足の動きまで追いついていない曲もあったんですけど、撮影をしている最中に「ここはやっぱりペダルも」って言われて。その場で10分で覚えて、本番でやるということもありました。それはさすがにしびれましたね(笑)。

――楽しかったことは?

例えば、歌で誰かとハモるとか、ギターのセッションもそうですけど、ピアノの連弾は言葉ではないもので距離が縮まる感覚がありました。ピアノというツールで分かり合えたり、打ち解けあえたりするのは素敵だなと思いました。

連弾ってカッコいいなとか、難しそうだなと、いろいろとやる前は思っていましたけど、誰かと一緒に奏でることの楽しさがあるとわかりました。

――ピアノ連弾がうまくいったとき、古川さんとハイタッチをして喜んだそうですね。

お互いにフィクションを本気でやっていて、何かをまとっている状態なのに、心が通じ合えるお芝居ができることってすごく面白いなって思うんです。本気で向き合っているからこそ、たどり着ける境地というか。そういう感覚がありました。

ただ、いくら二人でハイタッチをするぐらいのものができたからと言って、観た人がどう思うかはわからない。自分では「ここは気持ちがすごく乗せられた」と思っても、実際に本編で使われる保証はないし、自分と周りの感覚に温度差が出ることもある。けど、それもまたお芝居の面白いところでもあるのかなとは思います。

舞台をやっているときにもあるんですけど、「今日はめっちゃうまく歌えた!」と思ったら、自分としてはダメだと思っていた日のほうが「良かったね」って言われたり。そういう温度差が生じる、主観と俯瞰の違いとかも、お芝居の面白さだと思います。

――舞台で演じている最中に、素の自分に戻る瞬間もあるのですか。

舞台の場合は、若干、自分の目は持っています。逆に入り込み過ぎて周りが見えなくなってしまうことが危険なんです。例えば、セットが転換されていないかもしれないし、いるはずの人がいないかもとか、いろんなことがあるから。気づかないことで大問題が起きることもある。

だから基本的にお芝居はしているけど、どこかで自分が責任を持って見ていかなくちゃいけない部分もあります。映像の場合なら、たとえ視野が狭まっていてアクシデントがあったとしても、もう一回やれるので、そこの緊張感の違いはありますね。