僕の中でも戦っているし、薫の中でも間違いなく戦っている

撮影/AOI(Sketch)

――薫はフキが出会う大人の中の一人ですが、演じるのが難しそうな役に感じました。

難しい役だなという印象はありました。でも、難しく考え過ぎないで、普通の男の子だけどちょっと悩みがあるくらいの感覚で演じるようにしました。何か含みを持たせようとかは、早川さんも考えなくていいとおっしゃっていたので。

ニュートラルな状態で、まずはフキちゃんとの電話のやり取りではフレッシュさを大事に。その中で生まれてくる感情を取りこぼさないように集めていくような作業でした。

――世代も、背景もご自身とはリンクしない人物像かと思いますが、薫のことはどのように理解していきましたか。

種類は違うかもしれないですけど、同じような経験や感覚は誰しもあると思うんです。人には言えないけど、自分の中では「それしかない」と思うことって。僕なりのそういう気持ちであったり、過去に感じたことだったりを思いながら考えていきました。

薫が特別なわけでなく、誰もが当たり前に持っている感情の種類が違うだけだという考え方で作っていきました。彼はそういう人生を歩んでいるんだって。認めてあげるところから入っていくというか。

撮影/AOI(Sketch)

――演じる役として寄り添いたいという気持ちと、ご自身の倫理観との狭間で葛藤するようなことはなかったですか。

それは僕の中でも戦っているし、薫の中でも間違いなく戦っていると思います。だから、僕が葛藤していることは嘘にはならないし、全部を表現として表に出すというよりは、その瞬間、瞬間の状態を出していこうと思いました。

人っていろんな人の影響を受けながら形成されていくものだと思うので、それをもらう瞬間や、与える瞬間が存在すれば、素敵なシーンになるんじゃないかと思っていました。

それに、この映画はフキちゃんの物語で、薫はそこにどういうエッセンスや刺激を与えるかというポジションだったので、作品全体の世界観は絶対に壊したくないと思っていて。

早川さんの纏っている空気感や、オーラのようなものを現場で感じながら、海外のスタッフさんもいる現場だったので、そこの空気を吸っているだけで、自分の体がチューニングされていく感じがありました。うまく伝わるかわからないですけど、農場にいるような空気感というか。僕はすごく居心地が良くて。

だから、ああいう役をやっていると、ぞわぞわしたり、胸騒ぎがしたりするのかなと思っていたんですけど、そんなことは全然なかったです。もちろん、緊張感はありましたけど、唯ちゃんとコミュニケーションを取りながら撮っていきました。

――薫が最初に登場する電話のシーンではある種の純粋さも感じたのですが、そこから徐々に雰囲気が変わっていきますよね。

監督とは電話のところは好青年という感じで、実際に会ったときは全然印象が違うというのを表したいねという話をしていました。フキちゃんも電話の感じと違うことに戸惑うことになるので。

僕自身は演じていて、不思議なものに何か体や心を動かされているような感覚がありました。自分からどう演じようとかは決めずにいて、それが面白く作用したと思います。