奥行というか、厚みや立体感をこんなにも感じるのかと
撮影/AOI(Sketch)
――フキ役の鈴木唯さんとはどのようにコミュニケーションを取っていましたか。
唯ちゃんとは絵しりとりをしたり、あとは劇中にも使われているんですけど、唯ちゃんが動物の鳴きマネが得意で、それを一緒にやったりとか、早口言葉を作ったり。
――仲良くなることをしていたのですね。
そうですね。自分で言うのもなんですけど、僕に心を開いてくれている感じがしました(笑)。ちょっと不思議ちゃんで、ホントにフキちゃんって感じなんです。
ただ、撮影期間にいろんな話もして、僕は結構仲良くなったと思っていたけど、この間、試写で久しぶりに会ったら「坂東さん、お久しぶりです」と距離が遠い感じの挨拶をされました(苦笑)。
――リセットされちゃったんですかね(笑)。
たぶん、人見知りなんだと思います。でも、去年公開した(坂東が主演した)『ふれる。』というアニメーション映画を観に行ってくれていたり、『ライオンの隠れ家』を観てくれていたりしていて。しかも、今は同じ事務所の後輩にもなったので、これから近くで成長を見られるのは楽しみです。
撮影/AOI(Sketch)
――完全に外側からの見方なのですが、同じ子どもという存在と触れ合う役でありながら、『ライオンの隠れ家』のみっくんと、今回の薫に差があり過ぎてインパクトがより強かったです。
確かに。でも、僕としては基本的に子どもがめっちゃ好きなので、その感覚で接していました。子どもと言っても人間なので、こっちが心を開かなかったら、相手も開いてくれないとは思うんです。
ただ無理やり開かせようとはしないです。役柄として心を開けないとかもあるだろうし。(『ライオンの隠れ家』ライオン役の佐藤)大空くんに関しては、僕と精神年齢が一緒だったので(笑)。大空くん(6歳)は実際より3割増しぐらい上なんです。
――(笑)。本作の完成作を観たときはどう思いましたか。
物語としては、僕はシンプルにフキちゃんを追う気持ちだったので、自分の過去も回想しながら観て、一番、感情移入ができました。
あとは画がすごく美しいと感じました。フキちゃんが自転車に乗っているシーンとか。ワンカットであの表情が撮れているのがすごいなと。
それから、音が圧倒的に違いました。奥行というか、厚みや立体感をこんなにも感じるのかと。普通、映画とかドラマって、登場人物の会話だけが聞こえて、その他の生活音とかは消されていることが多いじゃないですか。
でもこの映画はその辺りがすごくリアルで、向こう側で話している人の声とか、外を走っている車の音とか、壁とかに跳ね返って聞こえてくる自分の声とか、生きているうえで聞こえている環境音もちゃんと聴けるんです。
その音に違和感がないから気付かないかもしれないんですけど、すべてが整った劇場という場所で聴くと、「うわ~、幸せ!」って気持ちになります。よりイメージが広がります。自分が実際にその環境の中にいるかのような感覚がして、実態が生まれてくるような。
フランス人の技師の方が音を撮っていんたんですけど、現場に見た事のないような環境音を録るためのマイクが何個も並べられていました。「みんな、音を録るから何もしないで」とかって、環境音だけを録るという時間もあって。
撮影/AOI(Sketch)
――何もしない音を録るって面白いですね。
何もしないことが、その瞬間に起きていることの真実なんですよね。人の声だけを録るとかはよくあるんですけど、環境音だけを録るというのはなかなかないなと。そこに圧倒的なリアリティが生まれるのだと思います。
今回、カンヌのコンペに入ったのも(第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に日本映画として唯一出品された)、唯ちゃんのお芝居とか、早川監督の脚本とか、演出とか、みんなの才能やセンスが集結した結果であるんですけど、その中での、映像や音というのも改めてすごいなと感じました。




























