――あと、映画の最初と最後に嘉雄がかつ丼を食べる、意味合いが違うふたつのシーンがあります。最初の方はグリーンピースを取り除いてあげる夏帆さんが、後半の方は東出さんがかき込むように食べるのが印象的だったんですけど、あのふたつのシーンは同じ日に撮ったんですか。
夏帆 いや、同じ日ではないですね。
東出 食堂のシーンの撮影は確か3日間ぐらいだったんですけど、その初日と最終日にそれぞれ撮ったような気がします。
それにしても、夏帆さんはグリーンピースを取るのが上手いですよね。箸の使い方が綺麗で、早いから驚きました(笑)。
夏帆 あのシーンが初日のファーストシーンだったのですが、とても緊張していたんです。初日ということも相まって、これ、取れなかったらどうしよう? と思って(笑)。
でも、可愛らしいですよね。 絹子さんの人柄がよく分かりますし、好きなシーンです。
――東出さんはどうでしたか? 最初と後とでは気持ちも違ったと思いますが。
東出 台本もやっぱりその通りに進行していましたし、時間がなくても、役者の気持ちを優先してくださる三島監督だったので、あまり無理することはなくて。
だから、最後のシーンもかつ丼をまるまる一杯食べるのを長回しで撮ったんですけど、何てことはなかったです。
監督はヤバイ人!?
――監督から何か役柄に対する注文みたいなものはなかったですか?
夏帆 先ほどの「カラスの鳴き声をやってみてください」とか「東出さんとふたりきりで話してください」といった指示はありましたけど、細かいところではそんなになかったと思います。
――ふたりにわりとお任せだったんですね。
夏帆 そうですね、ある程度、任せてくださって、気になるところがあったら修正してくださる感じでした。
東出 僕はクランクイン前に、通常の軽い本読みやリハーサルではなく、東出の人となりをまず見たいという監督の希望で1対1で食事をする機会があったんです。そうしたら、三島監督が全然視線を外してくれなくて(笑)。
夏帆 三島さんの目は強いですよね。
東出 強い! 真正面に座って、その目で僕を見てるから。
夏帆 しかも、黒目がちなので、ドキドキしちゃう(笑)。
東出 そうそう、気迫がすごいから圧倒されました。
夏帆 でも、実はシャイな方で。
東出 そうなんですよね。お酒を飲むと少女になるし、可愛いんですよ(笑)。
夏帆 こんなに可愛らしい一面もあるんだな~と思って、それが新鮮でした(笑)。
東出 助監督の佐伯竜一さんは「三島監督の映画に懸ける想いはスゴい」って言われていました。
伊豆の下田ロケのときも、7時にホテル出発なのに、朝5時にはロビーで仁王立ちで待っていたらしいんですよ。しかも、リュックを背負って。
それで「監督、何をしているんですか?」って聞いたら、「いや、現場にもう行く気になっちゃって」って答えたみたいなんだけど、それが本気みたいなので、僕も「それはヤバい人ですね」って笑っちゃいました(笑)。でも、それぐらい気迫がこもった監督でした。
古書を通して過去から現在へと想いが伝わっていくところが魅力
――ところで、この『ビブリア古書堂の事件手帖』は原作小説もベストセラーで、たくさんの方々が読まれていますけど、小説と映画、全体を通してのこの作品の魅力をおふたりの言葉で語っていただけますか?
東出 僕は、鎌倉という土地にもともと馴染みがなくて。観光で1、2回行ったことがあるんですけど、街中を全然知らなかったんですよ。
だから、原作を読んだときも、街並みやビブリア古書堂の店の佇まいが想像の域を出なかったんですけど、映画では街の景色や空気感みたいなのものが具体的に見られたのがよかったですね。
原作の魅力もスクリーンに出ていたような気がします。
あとは、やっぱり栞子さんの推理能力が素晴らしいですよね。
黒木華さんが演じられた彼女は、声も含めて、ものすごく可愛らしかったな~と思います。
夏帆 古書を通して過去から現在へと想いが伝わっていくところが、やっぱりこの作品のいちばんの魅力なんじゃないですかね。
三島さんもそれをいちばん描きたかったとおっしゃっていました。
――謎解きの面白さもあるし、そこに恋愛の要素も絡む多重構造になっているのが面白いですね。
夏帆 そうですね。現在パートと過去パートでは全然色が違うので、観た方がどんな風に思うのか気になります。
――本が好きな人は特に楽しめるような気がします。
東出 アンカット版(断裁されずら仕上げられた本)なども登場しますからね。
夏帆 小説をただ読むだけではなく、古書に込められた想いを読み解いていく読み方もあるんだなという発見もあって楽しめました。