――あそこでふたりの手が触れ合うというのは、東出さんが提案されたそうですね。
東出 そうです。でも、そういうことはけっこうみなさんされるので、別に特筆すべきことではないのですが。
夏帆 三島さんは毎回モニターを見ながら、すごく嬉しそうでしたよね(笑)。
東出 ああ、そうでしたね。嬉しそうだった(笑)。
夏帆 それを見ているのが、私もすごく楽しかったです。
実際に演じて、ドキドキしたシーン
――そんなに慌ただしい撮影ですと、演じながら恋をしている気分みたいなものを味わうことはなかったんでしょうね。
夏帆 でも、 読み聞かせのシーンはドキドキしたのを覚えています。本を読み合うなんて、私、いままでにしたことがなかったので(笑)。
東出 ああ、そうですね。
夏帆 これ、どういうテンションでやればいいんだろう? みたいなところが今回は全体的にあったので、私的にはけっこうスイッチを入れないとできなかったんです。
東出 そうかもしれないね。
夏帆 そうしないと、恥ずかしくて、絹子の気持ちに自分を持っていけないと言うか(笑)。でも、完成した映画を観たときに、そのピュアな感じがすごく出ていて……。
東出 初々しかったですね。
夏帆 その初々しい感じがすごくよかったと思いました。
――東出さんはなかったですか、そういうワクワクするような感じは?
東出 う~ん、でも、幸せな時間でした。本を読み合うって、気恥ずかしくもあるけれど、嘉雄は絹子にかなり惚れていたし、その気持ちの中でやっていたから、充実したいい時間でした。本当に、近年稀に見るピュアな役だったと思います(笑)。
夏帆 私も試写を観たときに、改めて、こういう役を久しぶりにやったな~と思って。でも、この映画ならではですよね。
そうやって本を読み合いながら、お互いの関係が近づいていくというのは。
東出 そうですね。
夏帆 すごく素敵なシーンだと思いました。
印象に残っているシーン=カラスの鳴き声!?
――ほかにも、印象に残っている撮影の思い出はありますか?
東出 今回の撮影では万年筆を使ったんですけど、田中嘉雄は太宰治に憧れているので、こういう万年筆がいいな~という理想が自分の中にあったんです。
そしたら、まったく何も注文していなかったのに、持ち道具さんがウォール・エバーシャープという、太宰が使っていた万年筆と同じブランドの年代物を持ってきてくださって。
ほかにも、田中嘉雄が書いている本が切通し坂の作品になっていたりして、持ち道具さんと一緒にやった作業や持ち道具さんの力でより広げていただいたところがありました。
そういうところは本当に自分ひとりじゃできなかったので、あり難かったですね。
夏帆 私はカラスの鳴き声ですかね(笑)。あれは現場で、三島監督から突然「やってください」と言われたので、「はい、分かりました」と答えてやったんです。
東出 可愛かったです(笑)。
夏帆 東出さんはあのとき、本当に素の反応をされたんですよね(笑)。
東出 そう、素だったね(笑)。
――東出さんは、あそこで夏帆さんがカラスの鳴き声をやることを知らされていなかったんですよね。
東出 たぶん知らなかったと思います。
夏帆 その顔を監督は見たかったんだと思います。この前、三島さんと別の取材でお会いしたときに、「あのシーンで東出さんの素の反応が撮れた~」ってすごく嬉しそうに話していましたから(笑)。
東出 へ~。試写で観たときに、やっちまった~と思ったんだけど、監督がそうおっしゃってくださっているならよかったです(笑)。