自分の弱いところや自分自身が嫌いなところを告白するのって、すごく苦しいこと

――豊川(中村里帆)にバイオリンの弦を届けようとしていた佐々岡が、真辺から「彼女が自分で切ってしまうほど追い詰められていた」という事実を聞かされ、そのことに気づけなかった自分を責めるシーンは、その最たるものだったような気がします。

あそこはいちばんリハーサルをしました。撮影に入る前に2日ぐらいリハーサルをしたんですけど、うまくいかなかったから、本当に悩んでいて。

分からないまま現場へ行ったんですけど、現場で佐々岡を演じていくうちに、彼の輪郭だけではなく、実像をとらえることができたんです。

何も考えずに、相手にセリフをちゃんと届けることだけを意識しながら、敢えて普段自分が喋っているように演じたら、すごく抑揚が出て、思ってもいなかった感情が湧き出てきて。

あのシーンの撮影で僕はクランクアップだったんですけど、あれは不思議な感覚でした。

――満面の笑顔だったのに、表情が……。

どんどん曇っていきました(笑)。

――その後の、「逃げるのは別に悪いことじゃない」と言って豊川を励ますところもいいシーンでした。

そうですよね。自分の弱いところや自分自身が嫌いなところを告白するのって、すごく苦しいことだと思うんです。相手に嫌われるかもしれないし。

でも、そういうネガティブな一面や逃げてしまったこともある自分の過去を曝け出した上で、佐々岡は「逃げたっていいんだよ。そんなときは誰だってあるし」と励まします。

しかも「君の音楽が僕の人生を変えてくれそうな気がする」ってもう一度別の言い方で励ますのですが、あのシーンも頭では何も考えてなかった。

それっぽいことを言いますけど(笑)、本当に心でお芝居をしたと言うか、佐々岡という役に連れていってもらった感覚に近いし、そういうことの連続だったので、この作品は全体的に言葉で何とも形容し難いんです。

――ちなみに、ロケ地はどこだったんですか?

それは秘密なんですけど、海も山もあって、港や川まであるすごくいいロケーションでした。日差しが強くて風が気持ちよかったので、もう最高でした。

横浜流星さんとのお芝居

――共演者の方々についてもお聞きしたいんですけど、七草を演じた横浜流星さんとのお芝居はいかがでした?

流星くんとは前にも映画で一度ご一緒しているんですけど、流星くんは何でも受け止めてくれるし、佐々岡と七草の関係性には普段の僕と流星くんの関係性を反映することができました。

――普段のおふたりの関係性も劇中の佐々岡と七草の関係に近いんですか?

近いと言うか…普段の僕たちもよく話しますし、お互いに聞き上手で話し上手でもある、すごくいい関係性なんです。

それに流星くんは物腰も芝居も柔らかいから、七草が流星くんで本当によかったと思います。

飯豊まりえさんは、嵐のような人でした(笑)。

――真辺役の飯豊まりえさんの印象は?

飯豊さんとは初めてでしたけど、嵐のような人でした(笑)。

――真辺役にピッタリですね。

まさに、そうなんです(笑)。現場の待ち時間でもとにかく元気で。

僕はどちらかと言うと他人の話に乗っかっていくタイプなんですけど、彼女はいつも話の中心にいて、ひとりだけスポットライトが当たっている感じなんです。

でも、カメラが回ると、その明るさとは違うエネルギーを使われるので、その切り替えはスゴいな~と思って。

それに目がけっこう凛としていて鋭いので、目から情報がすごく伝わるんですよね。

そういうことを一緒にお芝居をしていても感じることができたし、学ばせていただきました。

――先ほどの、豊川に弦を届けに行こうとする佐々岡と真辺の一連も彼女の目につき動かれさて……。

そうですね。僕は自分からアクションを起こすというより、みんなにだいたい助けてもらっていました。

それこそ、委員長の水谷を演じた松本妃代さんは一緒にお芝居をするシーンが多かったし……本当にみんなに助けられました。

松岡さんがある日突然「階段島」にいたら?

――ここから少し捻った質問です。松岡さんがある日突然「階段島」にいて、島から出られなくなったら運命に従うか、運命に抗って何とかそこから出ようとするか、どちらのタイプですか?

登場人物が「何の不自由もない」と言っていますし、真辺も「パンが美味しい」と言っているように階段島のよさもあると思うので、1回住んでみたいです。

ことを起こすのは、そういうことを経験しながら何ヶ月か経過した後じゃないですかね。

要はメールを受け取ることはできるけれど、自分から送ることができないとか、島の外に出ようと思っても出ることができないといった不条理にどこまで耐えられるのか? の問題で。

例えば、海外に行きたいと思ってもこの島の住人は行けないから、いまの僕とは価値観がまったく違ってくると思うんです。

――でも、不条理なことには抗おうとします?

抗います。抗うと言うか、自分の信念は曲げたくないので、そこは守ります。ただ、真辺みたいな戦い方はしないです。

――それではどんな戦い方をするんですか?

真辺は真っ向からぶつかりますよね? 自分の見解をみんなに言って、同調を求めて巻き込んでいきますが、あれは敵を作ると思います(笑)。

それに自分の気持ちをみんなに押しつけるだけではダメだと思うので、僕はもう少しクレバーに、島のルールに納得しているようなふりをして、裏で動き、知らないうちにいなくなっているような方法をとります。

そういう戦い方がいちばんいいのかなと(笑)。

松岡さんが嫌いだけれど失いたくないと思う自分の性格は?

――映画に因んだ質問をもうひとつ。階段島の住人は何かを失くした人たちばかりですが、松岡さんが嫌いだけれど失いたくないと思う自分の性格は?

基本的に僕、臆病です、完成披露の舞台挨拶の前も吐きそうだったし(笑)、映画の撮影も舞台の仕事もすべて本当に怖いです。

何が起こるか分からないし、もしそうなったらどうしよう?と思ってしまう。

そんな感じで、先のこともいまのことも心配になるし、気にしいで心配性という厄介なものをふたつも抱えてしまっています。

たぶん、人様の前に立つ仕事なので、見られたり、発言することに対して極端に臆病になっているような気がします。

まあ、臆病というのは慎重さとイコールなので、メリットもあると思うけれど、行動力や自分の個性を出すという点においてはこのままでいいのかな? というジレンマもたまに感じます。

この社会で自分らしく生きていくためには、絶対にそこは必要ですから。