宇宙ステーションでトラブル発生!弱みを見せられず頑張り過ぎて抑うつ状態に
林:実は宇宙ステーションの「閉鎖空間」で、過去にはかなり大きなトラブルも起こっています。
いまの国際宇宙ステーションの前身になったのは旧ソ連の宇宙ステーション・ミールなんですが、ここでアメリカとロシアの宇宙飛行士が初めて一緒に滞在した時に、お互いのコミュニケーションがうまく取れなかったことがありました。
宇宙飛行士は皆さん優秀なので、自分の弱みを出せないんですね。ですからそれぞれが頑張り過ぎて、ディスコミュニケーションになってしまった。
コミュニケーションが絶たれて、最終的に抑うつ状態になってしまった宇宙飛行士が、自分のゾーンに閉じこもってしまったのです。
その時に機器の老朽化などもあって、火災とか、貨物船の衝突とか、非常に命の危険が伴うような事件がありました。
それでいまNASAやロシアは「これではいけない!」ということで「閉鎖環境で、みんながストレスなく暮らすためにはどうしたらいいか」という訓練を導入するようになりました。
アメリカとロシアだけではなくて、日本人で医師でもある古川聡さんも、非常に宇宙でストレスを感じていました。
宇宙ステーションは潜水艦みたいなもので、近くにスーパーとかありませんから、貨物船で食料品を運んでいるんですが、古川さんの国際宇宙ステーション滞在中に、その貨物船が事故で爆発してしまった。
交代要員も同じロケットで運ばれてくるので、次に来るはずの交代要員が来られないかもしれない。国際宇宙ステーションが無人になるかもしれない事態に備えて、古川さんの仕事がもっともっと増えたんですね。
でも日本人は頑張り屋さんなので、古川さんはものすごく一生懸命仕事をしてしまった。
宇宙飛行士には定期的にストレスを評価するテストがあって、本人は感じていなかったんだけれども、自分のストレス度がものすごく上がっていてビックリしてしまった、と。
精神科医とのカウンセリングも定期的にあるんですけれども、忙しい時ほどそういう時間も取れない。このような経験から「これは問題だ!」ということも分かりました。
宇宙飛行士のストレス対策、大事なのは「悩みを打ち明けること」と「つながっている」感覚
林:いまのストレス対策がどうなっているのかというと、精神心理担当と、クローズな環境で、テレビモニターを通じて会議があります。
「困っていることはありませんか」とか、顔色や表情を見ながら、悩みを打ち明け合ったりという面談が、秘密を守るような環境下で行われています。
あとやっぱり隔離されているので「つながっている」っていう感覚を持つというのが、すごく大事なんですね。
ですから家族や友人と自由に話せる環境を作ったり、昔はインターネットも宇宙から満足に接続できなかったんですけれども、いまは自由に、地上ほどではありませんけれども使えるようになっています。
それからストレスを自分で分かることができるようなキットも、先ほどの古川さんが中心になって開発しています。
また宇宙飛行士に共通していえるのは「弱音を吐かない」ということなので、敢えて極限環境に追い込んで、自分の弱みを知って、それを相手に伝えるという訓練もしています。自分の弱点をさらけ出して「助けて」といえるように。
「頑張り過ぎない」ということでいえば、例えば日本の宇宙飛行士というのは世界一厳しい選抜試験で選ばれているといわれていて、筑波宇宙センターにある閉鎖環境施設に1週間閉じ込められて、どんな行動をするのかというのを5台のテレビモニターで監視されながら、いろんなタスクをこなしてゆくというテストがあります。
2009年に宇宙飛行士に選ばれた大西卓哉さんは合格後「頑張り過ぎたら自分はもうもたない、だから自然体で行くしかない」と、自然体で臨んだとも話していました。
子育ても「抱え込まず」「チーム戦」で!長年の宇宙飛行士取材から言えること
林:宇宙飛行士の実例や訓練から、皆さんにどういうことが提供できるかといえば、やっぱり「抱え込む」とか「弱みを吐かない」とかっていうことが「閉鎖環境ストレス」問題の根源になるので「頑張り過ぎない」ということですね。
ママはパートナーにも、なかなか「自分がこんなに大変なんだ」ということを言えないかもしれませんが「得意な人が得意なことをやる」「できないことはできないとはっきり言う」、それで「チーム戦で臨む」っていうことが、宇宙でも命を守るために大事だし、地上のママさんたちも、お子さんと自分、家族を守るために、そしてストレスとためないために大事なんだな、と思います。