――今年のヨコハマ映画祭の授賞式で、助演男優賞を受賞された成田さんが「大好きな“映画の世界にいてもいい”と言われたような気がする」とスピーチされたのも印象的でした。

デビューして何作目かのドラマの現場でセリフをぶつぶつ練習していたら、ひとりのスタッフさんから「うるせ~な~!」って怒鳴られたことがあって。

「このモデル上がりが!」って言われたこともあるんですけど、そのときに思った、その言い方はどんなんだろう? という気持ちを一生忘れないようにやっているので、自分のやっていることが認められると安心するんですよね。

今年、『愛がなんだ』『さよならくちびる』(19)、『カツベン!』(19)などで7個の賞をいただいたんですけど、受賞したときの正直な気持ちは“嬉しい”ではなく、“ありがとうございます”位のニュアンスで。

自分だけの賞ではない気がするし、作品ありきと言うか、僕が演じた人物はそれぞれの映画に作ってもらったものなので、そういう不思議な感覚に自然になりました。

演じたいだけでなく、いつかは映画を撮りたい

『弥生、三月 -君を愛した30年-』全国東宝系にて公開中 ©2020「弥生、三月」製作委員会

――『弥生、三月 -君を愛した30年-』の現場でも、遊川監督から「成田さんは役者として演じたいだけではなく、映画に関わりたい、映画を作りたいという気持ちで現場に臨まれているんじゃないですか?」って聞かれたみたいですね。

そう言われたんです。撮影中に何人かの監督からそう言われたことがあるんですけど、それはすごく嬉しい言葉ですね。

自分がどう演じるのか? より、自分がどうしたら作品が面白くなるのか? をやっぱり最優先に考えたいと思っているので、そう言ってもらえるのは嬉しいです。

――で、自分でも映画を撮ってみたいんですよね?

いつかは撮りたいという気持ちはあります。そのためには自分もある程度力をつけないといけないないし、力がついてきたら周りの人に「映画が撮りたい」って言えると思うので、人に話せるようになったら撮ってみたいです(笑)。

何も考えずに観られる映画が好き

――先ほども『ペパーミント・キャンディー』の話が出ましたけど、映画はけっこうご覧になるんですか?

いや~全然ですよ。日々観てはいるんですけど、同じような作品を観ちゃうんですよね。

――どんなジャンルが好きなんですか?

何も考えずに観られる映画が好きです。『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)が大好きなんですけど、ああいうのがいい。俳優ではジム・キャリーが好きですね。

――何となく分かります(笑)。

でも、しっかりした作品も好きですよ。いまも、ポン・ジュノ監督の作品をいろいろ観たいな~と思っているところです。

――『パラサイト 半地下の家族』(19)は当然ご覧になりましたよね?

観ました、観ました。あと最近、昔の映画が映画館でやっていたりするのがちょっといいなと思っていて。

小津安二郎監督の特集を渋谷のユーロスペースでやっているときも観に行ったんですけど、めちゃくちゃ面白かったですね。

――どの作品がいちばん面白かったですか?

『麦秋』(51)です。面白いし、スゴい。撮影も芝居もあそこまでスタイルが確立していると、誰も真似ができない。僕も最近、スタイルが欲しいなって、ちょっと思っているんですよ。

「いろんな役をやられますよね」ってよく言われますけど、そこに一貫した自分のスタイルが欲しくて。それは必要なものなんじゃないかなと考えているんです。

――いまのお話を聞いていても、成田さんが映画や芝居に夢中になっていることが伝わってきますが、以前お話を聞いたときは「この世界に入ったのは友だちが応募してくれたから」って言われてませんでした?

それは若干違います(笑)。オーディションの書類を書いてくれたり、教室にバーンって入ってきたと思ったら「早く行くぞ!」と言って閉まる直絶の郵便局にその書類を一緒に投函しに行ってくれたり、いろんなきっかけを作ってくれる友だちがいて。高校も一緒で、専門学校もその友人と一緒に入ったという人任せの人生だったんです。

――では、自分の中にもともとこういう世界で仕事をしたいという思いはあったんですね。

やっぱり、あったんですかね。テレビっ子だったし、映画も好きで、人前に出るのも好きだから、目立ちたがり屋なんだと思います(笑)。

言葉は少ないものの、独自のワードを時折挟みながら、悪戯っ子のような笑みを浮かべる成田凌。

その人懐っこい愛すべきキャラと多彩な役を違う顔で演じ分けられる振り幅の広さが多くの映画監督が彼を起用したくなる理由だろうが、インタビューからも分かるように、素顔の成田は真面目で謙虚で、浮足立ったところがまるでない。

静かな闘志も感じられたし、映画の現場や芝居をしている時間が大好きだということが、これまで以上にビシビシ伝わってきた。

『弥生、三月 -君を愛した30年-』では、そんな彼のスキルと経験が最大限に活かされている。よ~く観ていれば、映画の感動とともに、成田凌が波瑠ととんでもないことにチャレンジしていることが分かるはずだ。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。