中村倫也 撮影/高橋那月

“演じ分け”が前に出ないようにしなくちゃいけないと思っていた

そんな中で、では中村倫也はどのようにして役へアプローチしていったのか。俳優は、声や表情、姿勢に歩き方や仕草など、様々な素材を複合的に組み合わせ、役の人格を表現していく。その素材の中で、中村倫也が最も力点を置いているのはなんだろうか。

「そういうフィジカルな部分で言うと、重心ですね。重心によって呼吸の深さも変わるし、歩き方も姿勢も使う筋肉も変わる。フィジカル面での土台になっているのが重心なんじゃないですか」

7役の中でも中心となる“火曜日”を例に、中村は説明を続ける。

「家にひとりでいるときは足取りが重いんですよね、アイツ。でも外に出ると、ちょっと重心が上がる。そこが火曜日の性格というか。外に出るとドギマギしているけど、家にいるときは、ある種、マイペース。そういうやつなんです」

重心の高さは、他の役との対比で決まるわけではなく、あくまでその役の置かれたシチュエーションによって決定されるという。

「みんなそうだと思うんですけど、目の前にいる人の雰囲気やトーンによって重心が上がったり下がったりする。

だから、たとえば“月曜日”がこうだから“火曜日”はこうしようとか、そういうのはないです。もちろん7役あるので、違う音色じゃなくちゃいけないって住み分けを考えて、逆算して考えながらつくったキャラクターもあるけど。

だからって、他のキャラクターと違えばいいのかと言ったら、そうじゃないので」

『水曜日が消えた』6月19日公開©2020「水曜日が消えた」製作委員会
『水曜日が消えた』6月19日公開©2020「水曜日が消えた」製作委員会

本作で中村が見せたいのは、演じ分けではない。その役がどのように生活しているのか、佇まいから自然と浮き上がってくることだ。

「演じ分けていますということが前に出ないようにしなきゃいけないという気持ちはありましたね。特にこの映画は、役の生活感が重要。ひとつひとつの役をひとりの人物として生活レベルまで落とし込んでいくことが大事だった。

だから、それぞれの役の最初の撮影のときなんかは、自分でもすごくアンテナの感度を高めながらやったのを覚えています。

やっぱり演じているとわかるんですよ、自分が嘘をついているかどうかって。無理していたら無理をしている体になる。そこがすとんと落ちるポイントを、監督とイメージを共有しながら探っていったという感じです」

また、本作の演技面での特徴と言えるのが、ひとりのシーンが多いことだ。相手と会話を重ねながら感情を膨らませていく通常の芝居とは、性質がまったく異なる。

「個人的には、人とやった方が楽しいです(笑)。ひとりでやると予想外って起きないんですね。だから人とやっている方が楽しい。寂しかったですよ、ひとりは。

よく舞台でひとり芝居とかありますけど、絶対やりたくない(笑)。観ている分には楽しいんですけどね。すげえなと思うし。でも、僕がやることはないと思います。人と仕事がしたいですね」