緑豆粉やジャガイモ粉のチヂミ
チヂミ(お好み焼き)は韓国がまだ豊かとは言えなかった時代、おやつやマッコリのつまみとしてよく食べられたものだ。
韓国人は雨が降るとチヂミを思い出す。買い物に出かけるのがおっくうになるので、ありあわせの野菜を小麦粉や片栗粉を水で溶いたものに混ぜて焼いて食べた。
雨→チヂミは、そんな記憶がもとになっている韓国庶民の情緒なのだ。
また、雨音が鉄板でチヂミが焼かれる音に似ているからチヂミを連想するという説もある。
そして、少し脂っこいチヂミに合うのが、清涼感のあるマッコリだ。韓国では今でも雨が降るとチヂミでマッコリを飲ませる店が繁盛したりする。
映画『パラサイト 半地下の家族』の主人公(ソン・ガンホ)の家は、駅前にチヂミ横丁のある阿峴洞(アヒョンドン)辺りという設定だった。
今でこそ、野菜だけでなく海鮮や肉をたっぷり使ったチヂミは珍しくないが、朝鮮戦争時の支援物資として米国から小麦粉が流入する以前は、緑豆粉やジャガイモ粉を水で溶いて焼いただけで具はネギやニラくらいの素朴なチヂミが一般的だった。
日本で言えば、東京下町のもんじゃ焼きに近い存在だろう。
レシピは「チヂミ」で検索すれば山のように出てくるので、いろいろ試して自分好みの味を見つけてほしい。
昔風の味を再現したければ、食用油ではなく豚のラードを使うと本格的だ。
ヘルシーとは言えないが、豚の脂さえ貴重だった時代に思いを馳せながら食べるのも一興だろう。
マッコリ通の行き着く先は
旨い日本酒は塩をなめながら飲んでも旨いと聞いたが、マッコリも同じである。
筆者はかつて『マッコルリの旅』という本を書くために、韓国全土の大衆酒場や醸造所を巡って飲んだり食べたりした。
なかでも忘れられないのが、半島中央部の東寄りにある安東(アンドン)郊外の醸造所で、岩塩をなめながら飲んだ、しぼり立ての生マッコリだ。
その醸造所には試飲する場所に当たり前のように岩塩が置いてあった。マッコリ醸造所で試飲させてもらうときは、たいていキムチが出てくるので、最初は失礼ながら「ケチくさい」と思ってしまったのだが、岩塩をペロッとなめて飲んだマッコリの美味しかったこと美味しかったこと。
普通の塩だとしょっぱさがダイレクトに舌に伝わってしまうのだが、岩塩は舌の上で溶けながらじんわりしょっぱさがやってくるので、旨味がよく感じられるのだ。
日本のマッコリ通のみなさんにぜひ試してもらいたい。