多彩な切り口で「眠り」を表現
たとえば序章の「目を閉じて」の章は、瞳を閉じた状態の人物画ばかりが制作年代を問わず並んでいる。
目を閉じるということの無防備さや、無邪気さ、見る人と見られる人との関係性など、いろいろなことを考えさせられる。
第4章の「目覚めを待つ」は、覚醒の前段階として「眠り」を扱っている。
河口龍夫のインスタレーション《関係—種子、土、水、空気》は、麦やたまねぎなど30種類の植物の種子が30枚の鉛の板に閉じ込められ、壁にかけられた作品だ。
床に置かれた金属管のなかに入っているのは、種子を発芽させるための土や水、空気だ。つまり、この作品は現在進行形で眠り続け、そして目覚めを待っているのだ。
そして、第5章「河原温 存在の証しとしての眠り」は、その日の日付をキャンバスに書き込む作品で知られる河原温に焦点を当てている。
彼は、“I GOT UP AT ◯◯”と、自分の希少時刻を絵葉書に印字し、友人たちに送り続ける作品でも知られたアーティストだ。自分の存在を証明するときに「起きる」という動作を採用した彼の作品は、ミニマムながら現在も強く私達に訴えかけてくる。
さまざまな切り口で「眠り」に迫る本展は、いままで私達が気づかなかった「眠り」の効用にも気づかせてくれそうだ。
なお、カーテンやベッドを想起される展示室の設計デザインはトラフ建築設計事務所によるものだ。本展はサスティナビリティもテーマとして盛り込まれており、先日まで開催されていた「ピーター・ドイグ展」で制作した壁面の多くを再利用しているのも特徴のひとつだ。作品だけでなく、展示空間全体をしっかりと鑑賞しておこう。