楽しい瞬間なんて1秒もない「三浦組」の現場の心地良さ

ーー峯田さんから見た、三浦さんの現場の特徴、作品が完成に至るまでの特徴をお聞かせください。

峯田 三浦さんの現場は、役者さん、スタッフさん全員に一体感がある。「三浦組」みたいな緊張感で、いっさいの無駄がない。何がそうさせているのかは、はっきり言えないけど、きっと三浦さんのことを関わる人が全員信じてるからだと思う。

銀杏BOYZの『恋は永遠』っていう曲のミュージック・ビデオの監督を三浦さんにお願いしたことがありました。そのビデオでは僕はちょっとしか出ていなくて、ほとんどが三浦さんがセッティングしてくれたものだったんだけど、その撮影現場を僕が観に行ったんですね。

場所は川崎だったんだけど、現場に着いて最初遠くからその撮影の様子を見てたの。20分くらいだったかな?そこには役者さん、照明さん、カメラマンさんとスタッフの人たちが塊になって取り組んでたんだけど、その現場の熱量とか緊張感がすごく良くて。本当にすごい現場に見えた。

言葉ではうまく言えないけど、このときに思ったのは、「あ、俺はこんなに素晴らしい、熱のある現場にいられたんだな」って。そう思うと、なんかすごく感動しちゃって。

PHOTO:吉田圭子

三浦 「楽しそうじゃない」現場だとは思いますけどね。楽しい瞬間なんて1秒もないと思うけど、だから、もしかしたら峯田くんもそっち側を望む人なのかもしれないですね。ものを作るときは、苦しさしかないですよ。

峯田 その苦しい感じが心地良いのは確かですね。三浦さんの新作を観に行かせてもらうと、「ここに至るまで、この役者さんたちがどれだけ稽古をやって、どれだけのものを犠牲にしてきたのか」とかが見えるので、その説得力はすごいですよ。

「大変だから良いんだ」ってことではないけど、でも、今の時代は特になんかフワフワしてて緊張感がないでしょう。その点、三浦さんの緊張感ある作品や現場に僕は心地良さを感じますね。

新作の公演チラシとかを見せてもらう度、正直に思うことは「あ、今回の作品には俺はいないんだな」っていう。ちょっと寂しいんですよ。「三浦さんの作品なら、絶対なんでも出てみたい」とかではないですよ。でも、その一方で自分が関わっていない三浦さんの作品を知って寂しく思うことがあります。不思議なんですよね。それくらい刺激を受けているってことですね。

人間のエゴで「物語があるように見える」ことで世界が動いている

ーー肝心の『物語なき、この世界。』のストーリーはどんなものなのでしょうか。

三浦 目標点としては「『人間のエゴでしかないんじゃないか』というところをほじりたい」と思っています。

みんな自分の人生にとってのドラマや物語があると信じていると思うんですけど、見方を変えれば物語なんてない。それなのに、人間のエゴによって「物語があるように見える」ことで世界が動いている……そんなところを描きたいと思っています。

ーー例えばSNSとかだと、みんな主人公みたいになっていますよね。「オンリーワン」気分というか。でも、そうじゃない人もいて、そういった「世間の皮」みたいなものをペロッと剥がした世界を描かれるのかなと思いました。

三浦 別にたいしたこともないのに物語を取りたがる人の滑稽さ、おかしさ、醜さを描くことに重心を置くと、確かに描きやすいです。でも、今回はその領域ではないんです。そういう物語を求める人と、この世界の矛盾するところを暴きたい。そういう大仰なところに行きたいと思っています。

PHOTO:吉田圭子

峯田 過去に自分が関わらせていただいた三浦さんの作品にも、そういう片鱗がありましたよね。「今世間で起こっていることを、どこか俯瞰で冷静に見せる」みたいな。だから、今の話を聞いて腑に落ちるところがありました。

もしかしたら、「演劇ではあるけれど、それを劇的に見せないで、そのまま見せていく」みたいなやり方になるのかな? かなり難しいとは思うけど、だからこそ僕も楽しみにしています。

スタイリスト:入山 浩章(峯田和伸)トップス¥12,000(税抜)/WEYEP©︎SONIC YOUTH、パンツ¥38,000(税抜)/Sasquatchfabrix.

問い合わせ先
WEYEP/050-3393-1939
ドワグラフ.(dwagraph.)

【公演情報】

『物語なき、この世界。』

作・演出:三浦大輔
出演:岡田将生/峯田和伸/柄本時生/内田理央/宮崎吐夢ほか

東京公演
会場:Bunkamuraシアターコクーン
公演日程:7月11日(日)~8月3日(火)

京都公演
会場:京都劇場
公演日程:8月7日(土)~8月11日(水)

★東京公演分のチケット一般発売中

音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・デコ有限会社を設立。 出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタテインメント、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある。