芸術についても問いかける
現代の社会を問い直し続けるバンクシーは、芸術についても問いかけ続けている。
《Whitewashing Lascaux(The Cans Festival)》は、「バンクシー・トンネル」とも呼ばれた、ロンドンのウォータールー駅近くのトンネルに描かれた作品。人類による芸術の起原と称されているラスコー洞窟の壁画の動物たちを清掃員が消失させてしまう場面を描いたもの。
バンクシーらストリートのアーティストたちの手掛けた作品も、この作品のように儚い運命をたどる。もちろん、この作品も現場にはすでにない。
巨大な象が出迎えるこの空間は、2006年に開催されたアメリカの個展《Barely Legal(かろうじて合法)》を再現したもの。
だれの目にも明らかな問題点について誰も触れようとしないときに使う言葉「Elephant in the room(部屋に象がいる)」を現実に表したものだという。象は動物に有害ではないスプレー塗料で壁紙と同じダマスクス模様にペイントされている。この個展は3日間で3万人以上が訪れたという。
この空間に展示されている《Congestion Charge》は、デザイナーのポール・スミスのコレクションの一つ。のみの市で販売されていた無名の画家による風景画に、ロンドン市内へ乗り入れる車に徴収されるコンジェスチョン・チャージ(乗入税)の看板を加筆したもの。
のどかな田園風景の絵画だが、ひとつの看板を描き加えるだけでその意味は大きく変化している。
民族問題にも強い憂慮
バンクシーの関心は都市だけではない。民族問題についても強い憂慮を示している。パレスチナのガザ地区北部に描かれた《Giant Kitten》は「SNSではガザの悲惨な状況よりも、子猫の写真ばかりが見られている」との理由で描かれた子猫の絵だ。
《The Walled Off Hotel》は、バンクシーがパレスチナ自治区のベツレヘム市内にオープンした「世界一眺めの悪いホテル」。イスラエル政府により建てられた高さ8m、全長700kmに及ぶ分離壁が目の前にそびえる場所にある。
バンクシーや仲間のアーティストたちは、世界の人たちにパレスチナ問題へと目を向かせるためにこのホテルをオープンさせた。展覧会では、実際に窓から見える眺めも再現されている。
スティーブ・ジョブズと思しき人物が描かれたのは、フランスはカレーの難民キャンプ。シリア内戦の激化など様々な事情でアフリカや中東から避難してきた難民たちは、この地に集められ劣悪な環境で過ごしていた。
そこにバンクシーが描いたのは、シリア難民の息子として生まれ、アメリカで成功を収めたスティーブ・ジョブズ。バンクシーはこの作品において「彼の父親をアメリカが受け入れたから、年間70億ドルもの税金を払う、世界に冠たるアップル社ができた」と声明も発表している。
このほかにも、バンクシーのステンシル作品や覆面のポートレート写真なども会場に展示されている。バンクシーとは誰なのか?どのようなことを考えているのか?を、作品から感じ取ってみよう。
『バンクシーって誰?展』
12月5日(日)まで、寺田倉庫G1ビルにて開催