『女子高生に殺されたい』2022年4月1日(金)全国ロードショー ©2022日活

女子高生役の役者たちが作ってきたものをどう撮るかに徹した

――春人が近づく4人の女子高生のひとり、真帆も二面性、三面性のある難しい役ですが、演じられた南沙良さんにはどんな指示を?

いや、彼女にもあまり指示は出してないです。基本的に、今回は僕が脚本も書いていて、ある程度“僕の考えは脚本に書いてありますよ”という形だったし、みなさんが作ってきたものをこっちがどう撮るか、みたいなスタンスでやっていましたから。

二面性、三面性が出るところも彼女がどういう仕草をするのか1回見せてもらって、そこで細かい所作の調整はしたけれど、最初からできていたと思います。

――彼女が春人にバッと近づいて、「オマエ、何を企んでいるんだよ!」っていうところは特に素晴らしかったですね。

あれはゾっとしますよね。あそこは、僕がイメージしていた以上に怖いシーンになったと思います。

――南さんも今回の芝居を楽しまれていたのでしょうか。

どうなんですかね? 撮影の合間にほかの生徒役の子たちと談笑しているのは見かけましたけど、本人はわりと人見知りをするタイプの子だと思うんですよね。

だけど、スタートがかかるとバッと人が変わってしまうから、憑依型の役者さんなんじゃないかなと思います。

『女子高生に殺されたい』2022年4月1日(金)全国ロードショー ©2022日活

――真帆に寄り添うあおいも予知能力を持った風変わりな女子高生ですけど、この難しい役に河合優実さんをキャスティングした決め手は?

真帆役以外の3人はすべてオーディションで選んだんですけど、あおい役はその中でもいちばん難しい大きな役だったので難航したんです。

しかも、河合さんがオーディションに来ることは聞いていたけれど、彼女が僕の前作『愛なのに』(22)に出演していることはプロデューサー陣も知っていたので、“ちょっと使いづらいな~”というムードが最初からあって。

でも、そんなことは関係なかったですね。オーディションの彼女の芝居を見て、「もう、河合さんしかいないね!」って満場一致で決まりましたから。

――監督はどこがよかったんですか。

いま話したように、最初は前作と同じ人じゃつまらないと思っていたんですけど、そのマイナスの思考を凌駕するよさがあったんです。

あおい役って、簡単にやることもできると思うんですよね。ちょっとオドオドして、抑えた芝居をすればいいみたいな。

でも、河合さんの芝居には、それだけでは感じられない奥深さがあったんです。その違いを言葉にするのは難しいけれど、その違いは、彼女が持っている役者としての才能や資質によるところが大きいと思います。

――ずっとオドオドしていて、他人と目を合わすこともできなかったあおいが、最後の最後でそれまでとは違う一面を見せます。あのときの河合さんも素晴らしかったですね。

感情がないように見せかけて、最後に心が爆発するように持っていく。

あのあたりも、河合さんは脚本を読んだ段階から恐らく計算してくれていたんでしょうね。

『女子高生に殺されたい』2022年4月1日(金)全国ロードショー ©2022日活

理想とする映画は、ほかのどれとも似てない映画

――今回はホラーやサスペンス、ミステリーなどさまざまな要素のある映画だったと思うんですけど、監督がいちばん苦労したのは?

あまり苦労はなかったですよ。役者さんもみんなよかったですし、スタッフも全員敢えて初めての人にお願いしたんですけど、すごくやりやすかったですから。

――スタッフをなぜ初めての方々にされたんですか。

制作会社もこれまでとは違うところだったし、せっかくだから、いままでとは違う作品を作りたかったんです。

だから、スタッフのみなさんにもなるべく「好きなようにやってください」と言ったし、そんな感じだったから、現場は全然苦労しなかった。

ただ、コロナとちょうど重なった時期だったので、その点は大変でしたね。

それと、最初に話した原作のアレンジなど、脚本の開発の段階ではかなり苦労しました。

『女子高生に殺されたい』2022年4月1日(金)全国ロードショー ©2022日活

――そうは言っても、クライマックスの演劇のシーンはスケールも大きいですし、多重構造です。

舞台の上では芝居が演じられていて、その頭上では春人と女子高生たちの攻防が繰り広げられ、そこに春人の元カノで臨床心理士の五月(大島優子)や真帆に想いを寄せる同級生の雪生(細田佳央太)らが駆けつけてくる。

その3つの状況を同じ時間軸で描いていたのがスリリングで、個人的には設定はちょっと違いますけど、ブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』(76)や、本当のクライマックスが舞台裏というところが同じ、オードリー・ヘプバーンの主演映画『シャレード』(63)を想起したぐらい興奮しました。

あの一連を撮るのはやっぱり大変だったんじゃないですか。

ああ、確かにあれは大変でしたね。ごまかして撮ることも全然できたんですけど、今回は制作の条件もよかったし、真正面からやってみようと思ったんです。

だから、舞台上で行われている演劇もちゃんと話を作ったし、体育館には実際に生徒役の役者やエキストラをいっぱい入れました。

そういった正攻法で撮ることにチャレンジしたんですけど、あれを舞台上の演劇と駆けつけてくる3人で1日、その頭上を1日で撮り切るのはなかなかしんどかったですね(笑)。

城定秀夫監督

――映画を撮るときの、監督のこだわりみたいなものもあるんですか。

撮影自体はオールド・スタイルで、ストーリーもそうですけど、カットを割らなくてもいいところはカットを割らずに無駄なく見せていきたいとは常に思っています。

1カットで芝居がすべて撮れるんだったら、ほかのカットを撮る必要はないでいすからね。今回も多少大きなバジェットの作品だったから、アップはいつもよりたくさん撮った方がいいのかな~って思っていたけれど、結果的にはわりと自分のスタイルでやれたような気がします。

まあ、撮影中に田中さんから、嫌味でも何でもなく、「監督、カットを全然割らないんですね」みたいなことは言われましたけどね(笑)。

――春人は“完璧な自分の殺人計画”を練りますが、城定さんが理想とする映画はどんなものですか。

う~ん、(フェデリコ・)フェリーニ(監督が撮る映画)ですかね。リアルではないものをどう見せるのか? みたいなことになってくると思うんですけど、それを目指しているわけではないです。

何かに似ているものではなく、どれとも似ていない映画がたぶん自分の理想の映画だと思います。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。