「何を伝えようと思っているのか」というのを明確に

撮影/You Ishii

――出自からしても大劇場のイメージが強いおふたりが、小劇場でのミニマムな作品で顔を合わせるのが興味深いです。まず、坪倉さんが自身の体験を綴った原作をお読みになったと思いますが、おふたりにはどんな部分が響きましたか?

柚希 本当に赤ん坊に戻ったっていうか、何もかもが分からなくなるというものすごい体験をした坪倉さんが、昔の記憶を思い出して生きるのではなく、いろんなものにちょっとずつ出会いながら、ここからの人生の希望の光を見つけていくというところに感動しました。些細なことでも幸せを感じるというのも、自分に置き換えるとしみじみ感動できたし。ただ、それを演じるとなると難しい……。

濱田 原作を読み終えたときに私が一番思ったのは、人として生まれてこの地球上で我々がやったり感じたりしていること――行動とか認識とか固定概念とか常識とか既成事実とか、それらは元々あるものではなく、後々つけられたものなのだなということ。

坪倉さんはまず“本能の点”みたいなところに戻っちゃったわけなんですよね。宇宙人が地球に来て、「僕の星ではこう生きてきたけど、地球人っていうのは二本足で立つんだな」ぐらいのところまで戻ってしまってる。全部を剥がされて魂の光のひと粒にさせられた宇宙人の魂が、地球にぽんって落とされたところから始まっているような気がして、ちょっと想像がつかなかった。

そのスケールが深すぎて本質すぎて、原作を読む手が一瞬離れたこともあったんです。この作品を易々と軽い気持ちでは取り扱えないなと思って。一般常識というものをまず取っ払ったところから入らないと、役作りも何もできないなと感じますね。

――お話を伺いながら、4人の演者の皆さんも今回ある意味、坪倉さんと同じような体験をすることになるのかなと感じました。

濱田 ほんとですよね! そうか、坪倉さんはそれを経験されているんだよなって今改めて思いました。(原作は)フィクションじゃなくてノンフィクションなんだって。

柚希 でも一方でミュージカルである以上、この本当にあったことをあったままやってドキュメンタリーみたいになってもいけない。「へえ、そういうことがあったんだ」で終わらないようにするにはどうしていくか、そこをみんなで作る感じが今回の作品にはすごくありますね。

濱田 そう。テーマがセンシティブだからこそ、作る側が「何を伝えようと思っているのか」という明確な共通認識を持っておかないと、オリジナル作品だと特に、「結局、何を言いたいの?」というふうになりかねない。

柚希 共通認識が欲しいっていうのは、確かにすごく思いますね。

濱田 作品としてどういうものをプレゼンできるかによって、受け取るお客様の今後の人生とか思考とか価値観とかにも影響を与えかねない作品になる気配もあるので、怖いなあと思って。やるならちゃんと意味があるものを、これだけのスタッフ、キャストが集まってこの演目を立ち上げるんだったら、やらなきゃなって思いますよね。