母というものを美化しない、を心掛けたい
――そんな作品においておふたりが演じるのは、主人公の“母”。
柚希 原作は坪倉さんの視点で書かれているから、私たち読む側も母のことは客観的に見ている。なので、母という役がリアルに流れだすまでがすごく難しそうですよね。
濱田 原作にお母様ご自身の心境の吐露のようなものはないし、役者が想像力でフィットさせて芝居としてやるには材料が少なすぎると言えるかも。まず想像を絶する経験であるし、もうひとつすごく難しいなと思ったのが、本当のお母さんでさえ記憶喪失になった息子の前で母親を演じるじゃないですか。
“母”“息子”の概念を知らない我が子に「私はお母さん。母親とはこういうものよ」って。それをやらなければいけなかった実在のお母様がいたところを我々が演じて、またそれをお客様に観せるといういくつもの段階が必要になってくるわけで、それはどうたどり着くのだろうかと。
――柚希さんの母役というのは、とても新鮮な印象がありますね。
柚希 母っぽくないけれど母親は何回かやっているんですよ。『ビリー・エリオット』とか、『ボディガード』も一応母だったり(笑)。
濱田 あ、そうでしたね!! でもここまでガチなお母さんっていうのは初めてでしょ? ファンの方はものすごく楽しみなんじゃない? 「ちえちゃん(柚希)がお母さんするんだ。どうなるの?」って。
柚希 そうなんですよ(笑)。周りの話を聞くと、とにかく子供のためだったらなんでもできるけれど、だからといって母になったから凄くなったわけでも立派になったわけでもなく、子供から毎日学ぶというようなスタンスのお母さんが多いんですよね。
だから私も今回、いい母になろうとせず、息子に集中して過ごしてみるというのをやってみたい。宝塚で下級生を育てた経験というのも1ミリぐらいは使えるかもしれないし(笑)。とにかく母というものを美化しない、を心掛けたいなと思います。
――息子を演じるおふたりの印象は? 濱田さんの息子“ぼく”を成河さん、柚希さんの息子“ぼく”を浦井健治さんが演じます。
濱田 成河くんは才能の塊みたいな。ボールみたいにバンバンバーン!って(笑)。成河くんに任せていれば間違いないという感じがして、母と息子ですけど、今回は私が彼についていこうと思っています。彼が舵を切って自由に行くところに母親としてついていく、飛び込んでいくのが、ふたりの役者のタイプとして一番いいかたちだなって。
柚希 私は浦井さんとも成河さんとも初めて。浦井さんは舞台を観たとき、周りのみんなの動きを全部受け止めてそこにストンッと存在していらっしゃる感じだったので、優しい方なんだろうなと思って。チラシ撮影のときに初めてお会いして、そのときも自然にストンッとしていらっしゃって、私の後ろにもたれるような動きのときも自然に入ってくる感じで。
もうちょっと張ってる感じなのかなと勝手な想像をしていましたけど、そんなことも全くなく、本当にナチュラルでピュアでいらっしゃるんだろうなと。
濱田 今チラシの写真を見ていて思ったんですけど、ふたりは本当にこの目のとおりの役作りをして、この目のとおりの息子になるような気がする。タイプは真逆だと思います。