自分の絵を見返してみて、気づいたこと

「『絵を貸して欲しい』と言ったら最初は断られるかなと思っていたんですけど、快く了承してくれて、倉庫のようなアトリエに呼んでいただいたんです。でも、巨大なものから小さなものまで数えきれないぐらい膨大な量の絵があったからなかなか選びきれなくて」

と、絵をセレクトした山内監督は語る。「それでサイズごとにいいなと思うものを選んで、なるべくたくさん飾るようにしました」

香取もセット内の自分の絵を眺めながら、感慨深げだ。

撮影:熊谷仁男

「自分の絵をじっくり見ることはないんですけど、今回、撮影中に一個一個の絵を見ると、こんなところにこんなものが描いてあるとか、この絵はヤバそう、精神状態がよくないときに描いたんだろうなというのか分かって。10年ぐらい前のものから最近の絵まで入り乱れていますしね」

ただ、よく見てみると、どの絵にも署名はない。そこにも香取のこだわりがあって、「名前や描いた日にちは裏に書いてます。表に書くのはあまり好きじゃなくて」ときっぱり言い切る。

撮影:熊谷仁男

ちなみに、本作のちょっと変わったヒロイン“歌喰い”を体現した12歳の注目のモデル・中島セナちゃんも絵が描くのが好きなようで、香取が「ここに飾ってある僕の絵の中でいちばん好きなのはどれ?」と聞くと、少し考えてから1枚の絵を指で示し、「えっ、あの魚みたいなのが描いてある奴? へ~そうなんだ」と作者を無邪気な笑顔にさせていたのが印象的だった。

撮影:熊谷仁男

でも、けっこう長い期間唄ってなくて(香取)

香取慎吾の香取慎吾らしさを引き出す本作の重要なファクターは“絵画”だけではない。

SMAPのメンバーとして25年に渡って数々の名曲、ヒット曲を唄い続けてきた彼と“歌”とは決して切り離すことはできない。なのに、本作では香取慎吾が“歌喰い”に歌を食べられて、唄いたくても唄えなくなるという、実際の香取の現在の状況を表すような皮肉な展開が用意されている。

けれど、本人はいたって冷静だ。「“歌喰い”という妖怪みたいなものは昔からいそうな気がするし、“歌喰い”に歌を喰われると唄えなくなるというのは初めて知る感覚ではないので、面白いです」。それが香取の感想。

「以前、三谷幸喜さんのミュージカル『TALK LIKE SINGING』(10)で歌しか唄えない役をやったこともあるし。そのときは、すべての会話が歌になっちゃう主人公が最後に歌を奪われて喋れるようになる内容だったけれど、今回は歌を奪われて唄えなくなってしまう展開なので、自分には歌や音楽がついて回るものなのかもしれないですね(笑)」

そう言いながらも、「でも、けっこう長い期間唄ってなくて」と振り返る。