「生きづらい世界」なのではなく、「気持ちいい世界」で、各々の生きづらさがあっただけ

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――原作と映画では違う描かれ方をしている部分もありますが、それについてはどう思っていましたか。

原作を読み終わったときと、映画を観終わったときの感触や受け取るものが、僕は一緒だと感じました。想像の話になってしまうけど、逆に原作のままで実写化していたら、こんなふうには感じられなかったんじゃないかと思います。

小説を読んでいるときは、読んでいる人それぞれが頭の中で情景や人物を想像するけど、実写はそこに実体が存在しますよね。三宅さんはその上で、届けるべきもの、映すべきものを捉えているんだろうなと。

小さな街の、二人の話だけど、それを宇宙まで広げたことで、その二人の話がすごくちっぽけで可愛らしいものにも見えるし、空を見上げると、この宇宙の一部なんだと感じられる、すごく壮大なものにも見える。映画を観ながら遠くに行ったり、近くに行ったりを繰り返すことで、奥行きがすごく出るなと思いました。

それから、山添くんと藤沢さんが抱える生きづらさも、きっと漠然としていて、宇宙みたいなものだとも感じるんです。その不安感とかも繋がって、この映画での描き方は必須だったんじゃないかと思えました。

山添くんと藤沢さんが最後に選ぶ道に関しても、僕はそれぞれに明るい未来が見えると思えたし、あの選択が一番良かったんだろうなと思っています。

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――本作について、松村さんは「生きづらさを描きながらもとても気持ちのいい話だった」とコメントされていましたね。

「生きづらい世界」が、この物語の入り口のような気がしたんですけど、終わるころにはとても気持ちのいい世界なんだけど、そこで生きづらさを感じていただけのように思えました。

ここが「生きづらい世界」なのではなく、「気持ちいい世界」で、各々の生きづらさがあっただけの話。そう思えたときに、すごく「気持ちのいい話だった」と感じられたんです。

あくまでも最後まで「生きづらさ」というものはまとわりつくし、山添くんにもまだまだ「生きづらい」と感じることはあるんだけど、きっとそこから抜ける方法もどこかにちゃんとあると思える。そこに気持ち良さを感じたのだと思います。

――エンドロールが、その気持ち良さみたいものを表現しているようにも思いました。

あれはズルい(笑)。「三宅さん、いいの撮るな~」って思いました。