もっと周りを頼ってもいいのかな

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――改めて、松村さんがこの映画を通して感じたことを教えてもらえますか。

山添くんのセリフの「助けられることはある」という言葉が印象に残っています。自分自身の苦しさを拭いたいと思っている中で、他の人のことなんて考えられないっていうのもあるけど、どこかで助け合えるんじゃないかということに希望を感じました。

山添くんと藤沢さんは、自分の中で堂々巡りをしていたことが、助け合えるということに気づいたときから、いろんなものがこれまでとは違う巡り方をするようになって、最終的にはある程度浄化できるところまでいけた。

誰かのことを助けられることはあるってことが抜けて落ちてしまうことで、自分のことも遠回りしてしまっていることが、たくさんあるような気がしました。

――今回、役者として得られたことはありますか。

お芝居ができないながらも、自分でどうにかしなきゃと思うところがあって、それで頑張ろうとしてしまうけど、もっと周りを頼ってもいいのかなと感じました。

周りからの影響を受けて、それに突き動かされていること、助けられていることがたくさんあるなと。それを自然と受け取って、自然と返せるくらいの気持ちの余裕があってもいいのかもしれないと思いました。

それからもう一つ、クランクインの前に、三宅さんが、この作品のムードを感じられる音楽のプレイリストを作ってくださったんです。それがすごく自分にフィットして。実際にその曲たちが山添くんを演じる上での感覚にもハマりましたし、曲から気持ちを作るというやり方もハマりました。

演じている最中もその曲たちが頭の中に流れていることがあって。ビートルズの「イエスタデイ」は、自転車に乗っているシーンで、鼻歌で出てしまいそうになるくらい、頭の中で流れていました(笑)。

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

――本作を通して、改めて人の温かさや優しさを感じることはありましたか。

出てくるキャラクターはそれぞれに深刻な悩みを抱えていますけど、全体としてなんでこんなに温かみを感じる作品になっているんだろうと考えたとき、きっと、世の中は割合として温かいことや、素敵なことのほうが多いんじゃないかと思いました。

それから、人と人の関係って一瞬で終わることも多いけど、その中でも温かさを渡し合っているんじゃないかと。もちろんそれができないときもあるけど、本当は誰でもできる力は持っていて、そういうものに満ちているから、息苦しいと感じることがあっても、生活ができているんじゃないかと感じました。

そう考えると自分の人生の振り返り方も少し変わりました。自分はかなりいい人生を送っているんじゃないかと、はっきりと思えるようになりました。


松村さんと上白石さんが以前、夫婦役で共演したこともあり、心に傷を持った男女がお互いを慰め合いながら芽生える愛の物語を想像した人もいるかもしれませんが、恋愛感情がなくても、人としてお互いを尊重し、気遣い合う二人の関係性が、お二人だからこそ伝えられる空気感で紡がれています。

インタビューでは一つひとつの質問に、真剣に、ときに考え込みながら答えてくださっていた松村さん。その言葉を、映画を観た上で、改めて受けて止めてみていただければと思います。

作品紹介

映画『夜明けのすべてL』
2024年2月9日(金)より全国公開