『ボストン1947』© 2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CONTENT ZIO Inc. & B.A. ENTERTAINMENT & BIG PICTURE All Rights Reserved

ボストンの風景に似たところで撮影

――なんといっても最後のマラソン・シーンが圧巻でした。実際にはボストンで撮影したのではないんですよね?

やはり最初はボストンで撮影したいと思い、ロケハンにも行きました。が、ボストンは今でも同じマラソンコースを維持し続けていて、季節的にも私たちが撮影したい時期とマラソン大会の時期が重なるので実質的に難しかったんです。制作費の問題もありましたし。それで、当時のボストンの風景に似たところはないかと、グァテマラやチリなど南米のほうで探し始めたのですが、見つからず……。次にヨーロッパ、ポーランドやハンガリー、そして私が『マイウェイ』の時に撮影したラトビアまで探しましたが、ぴったりくるところはありませんでした。そして、最後のチャンスでオーストラリアにロケハンに行って、メルボルンの近くにあるベンディゴで似ている場所を発見して、そこで撮影しました。

――涙が出るほど感動的なラストでしたが、カン・ジェギュ監督ならではの人々を感動させる演出法のようなものはあるのでしょうか?

それは私からは答えにくい質問ですね(笑)。 “君には本当に男を泣かせる才能があるね”と言われたことがあります。

でも、果たしてそうかな、自分は感動や涙が好きなのかなと自問する時がたまにあります。

監督というのはどうしても興行成績が頭から離れません。特に、製作費が大きい映画であればあるほど、たくさんの大衆に愛されなければならないという宿命、運命のようなものがあります。

プロとしてそういう部分を意識せざるをえません。でも、意図したからといってうまくいくわけでもありません。難しいですよね。

自分が映画からどんな刺激を受け、何を感じるのか、観客の立場で振り返ってみると、私がなぜ生きるのか、生きる意味をとても強く感じた時に感動し、自分が成長できるのだと思います。

そして、私が映画からもらったたくさんの感動、刺激を、今度は自分が誰かに与えたいと、そう思うんです。

――3人がボストンに行くまでの道中もとても面白かったです。あの旅程も実話をもとにしているのですか?

実際にはもっと大変だったようです。シナリオ段階で調べた内容は韓国から出発してボストンに到着するまでがとてもドラマティックでした。

軍用機に乗って、次の飛行機に乗り遅れ、海外の同胞から歓待を受けたり、現地の高校生が“靴を買ってください”“何か食べてください”とお小遣いの中から寄付してくれたり、そんな紆余曲折のエピソードがたくさんあったので、いっそのことその道中だけを描いた映画にしようかという話もありました。

ボストンから戻る際も1ヵ月ほどかかったそうで、最終的には東京から船で仁川(インチョン)に入り、そこから車でソウルまで戻ったらしいです。

当時の韓国の少し痛い部分、国際社会から取り残されていた現実を感じさせてくれる場面だと思います。

カン・ジェギュ監督が韓流ブームの先駆け

『ボストン1947』© 2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CONTENT ZIO Inc. & B.A. ENTERTAINMENT & BIG PICTURE All Rights Reserved

――『シュリ』『ブラザーフッド』などアクション映画もたくさん撮ってこられましたが、初のスポーツ映画ということで何か違いはありましたか?

アクション映画は、その場の現場性、例えば、戦争なら戦場の現場性、銃撃戦が起こる現場の生々しさをリアルに描かなければなりません。

もちろん、人物も重要ですが、その背景と環境がとても重要です。なので、ダイナミックなカメラアングルや、近接撮影などで、ディティールを生々しく捉えることが大切だと思います。

本作の場合は、マラソンを観客の立場で見る時に、集中してみるのはどこだろうと考えました。走る人々の呼吸、表情、雰囲気、そういった細かい部分をじっと見守るような感じで演出しなければならないと思いました。なので、背景や環境よりも人物のディティールに焦点を当てるように気を遣いました。

――監督自身、マラソンは走られるんですか?

努力はしていますが、難しいですね。今は長男のほうがマラソンに興味を持っていて、ハーフマラソンに何度か参加しています。

――来日中はちょうどパリ・オリンピック開催中。何か注目している競技はありますか?

普段、そんなに興味がないんですが、今回はフェンシングの本場パリでの韓国選手たちの活躍を見て、血が熱く燃えたぎるような気がしました(笑)。

――昨年は『シュリ』で東京国際映画祭にも参加されました。

『シュリ』は韓国での公開を基準にすると今年で25年になります。去年、東京国際映画祭での上映の後で、昔のいろんな資料や『ブラザーフッド』のDVDなどを持ってこられた方々がいてサインをする機会があったのですが、その時に感じたのは、映画も年を重ねていくんだということでした。ただの消耗品ではなく、私たちの心の中で長く保管される、そんな生命を持っているんだと。映画の価値を認めてくださる日本の観客の皆さんにとても感謝しています。

――最後に監督からメッセージをお願いします!

この映画は、本当につらかった時代に挑戦して自分の夢をかなえたお話です。どんな時代でも大変ですし、生きるのも簡単ではない。特に、今の若い世代はつらい思いをして生きていると思います。夢と希望、勇気、そんなパワーをこの映画から感じていただき、少しでも夢と希望を叶える原動力になればと願っています。

ボストン1947
全国公開中

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