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作品に見るリアリティ

――全員がフレームから出たり、入ったりしますが、そのあたりは俳優に自由にやってもらう形だったのでしょうか?

一度だけリハーサルをしました。そこで思ったことを伝えました。あとは全て俳優の自主性に任せました。

アップにしたければカメラによって、引きたければ下がる。フレームから出たり入ったりするのも自由。「アドリブも自由に入れていい」と伝えました。

――劇中でみんなが話す好きな映画には行定監督の好みが見え隠れしますが、あれはすべて台本通りですか? それとも、各俳優の実際に好きな映画が反映されているのでしょうか?

脚本にある部分とない部分があります。ホン・サンスや『ラヴソング』、ジム・ジャームッシュなどは僕の好みですが、それぞれの好きな映画はそれぞれが好きなものをこのシナリオとの相互関係を含めて考えてきたものです。

俳優たちは映画をあまり観ていないような役を演じていますが、みんなかなりの映画通なので、絶妙な作品を紹介してくれたし、この映画の内容とも調和がとれていて面白かったです。

今しかないツールに寄り添った表現をした

――音声が聞き取り難いところも逆にリアルでしたね。

Zoomの音声をそのまま活かしています。あえて別録りはしませんでした。

聞こえないところで聞き返すのはオンラインのリアリティなので。

聞こえなければ聞こえないと顔を寄せたり、聞き返してくれればいいと思っていました。

――今回、この新しい試みをやったことで映像表現の新たな可能性を感じたりしましたか?

今しかないツールを使ったのは必然でした。

この頃からこのコミュニケーションが一般化したんだと、数年後に話しているのではないかと思います。新たな可能性なのかは分かりませんが、この状況も含め、この時代の即時的なものに寄り添った表現をしたと思っています。

タイトル『きょうのできごと』に込めた想い

――『きょうのできごと』というタイトルにはどんな想いが込められているのでしょう?

2005年に公開された拙作のタイトルからの引用です。

あの作品は9・11が起きたときに企画していて、今回は新型コロナ禍。

テロやウィルスで世界が揺らいだときに自分たちは何をやっていたのかを映画にするところが同じだったのと一晩の飲み会が一緒だったので、『きょうのできごと』の原作者、柴崎友香さんに許しをもらって同じタイトルにしました。

――すでに多くの人が鑑賞されているようですが、その反応をどう受け止められていますか?

とにかく未曾有の出来事で世の中が大変なことになり、家に閉じこもって外出自粛を余儀なくされている人たちが楽しかったと喜んでくださっているメッセージをもらって嬉しいです。

とにかく、この状況をみんなで乗り越えて、また映画を観にきて欲しいと思っています。

行定勲監督

――行定監督自身は、いまはどんな日々を送られているのでしょう?

ずっと外出せずに次回作を構想しています。

――最後に。コロナの1日も早い終息を願っている人、行定監督の2本の新作『劇場』『窮鼠はチーズの夢を見る』の公開を心待ちにしている映画ファンの人たちにメッセージをお願いします。

正直、どんな形で観客の皆様に映画が届くのか不安な部分もありますが、とにかく楽しみにお待ちください。なるべく早い形で皆様に観ていただけるよう頑張ります!

『きょうのできごと a day in the home』は衝撃の事態を記録した、この状況だから産み落とされた作品ですが、行定監督の力強い言葉、こんなときでも諦めずに何ができるのか? を考える前向きな姿勢、6人の俳優陣たちの自然な会話に元気をもらえた人も多いのではないでしょうか?

でも、映画はやっぱり映画館で観たいもの。友人や仕事仲間とお互いの顔を見ながら「完全リモートで作られたショートムービーがあったよね」という話ができる日が、行定監督の2本の新作を映画館で観られる日が、1日も早く訪れる日を楽しみにこの苦境を乗り越えましょう。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。