あえて“配給会社別”に見放題配信パックを用意。その意図とは?
始動した“Help! The 映画配給会社プロジェクト”で実施するのは、自社で過去に配給した作品の配信。それぞれ会社別に配給作品の見放題配信パックを用意した。
配信作品は過去作に限定。新作に関してはあくまで映画館で公開してミニシアターの収益を確保し、合わせて過去作の配信によって少しでも経営を安定させ、映画館をはじめとしたこの仕事に関わる人々の事業継続を目指す。
それぞれの独立系配給会社の財産である“映画”を配信で観てもらうことで、観客の力を借り、この難局を乗り越えたいという。
「もともと、私たちもAmazonプライムをはじめ配信に作品を出してはいるのですが、個別に出しても、どうしてもメジャーな作品や話題作に埋もれてしまう。
だから、配給会社ごとのパックが良いんじゃないかと。
配給会社にも個性やカラーがある。アート系の作品を主体とするところから、ヨーロッパ映画を得意とするところ、あまり映画産業が盛んとはいえない国の隠れた作品を発掘してきたりと、それぞれ特色がある。
ピンチを迎えている今回ですが、この機会に、黒子の存在である私たちの存在を知ってもらうきっかけになればと思いました。
また、アップリンクのクラウドを利用している方は、おそらくミニシアター系やアート系の映画に興味のある方が多いはず。その皆さんは、私たち独立系配給会社の作品の観客層にも重なり、親和性がある。
まだまだ外出することにためらいがある今、そういった映画ファンにあらためて観ていただけるチャンスになればと」
観ることでその人の生き方や思考になにかプラスになる。それが“映画”
この配信パックのラインナップをまずはチェックしてほしい。
ホン・サンス、キム・ギドク、ジャック・ドゥミ、イングマル・ベルイマン、アルノー・デプレシャン、ルネ・クレール、ロベルト・アンドー、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ワン・ビンなど、名だたる監督たちの名作が並ぶ。
もし、これら独立系配給会社が手を挙げることなく上映をしていなかったら、日本で紹介されることなく終わった監督がいたかもしれない。
そして、日本では当たり前のように世界各国の映画が上映されているが、これを私たちが享受できているのはミニシアターの存在であり、独立系配給会社のおかげ。そう実感するラインナップでもある。
それほど独立系配給会社は多様な作品と世界の映画作家たちを私たちに紹介していることが分かるに違いない。
「私の経験上、配給会社をやっているといっても、ほとんどの方がなにをやっているのか分からない(苦笑)。
まあ、表に出るわけではなく作品と劇場の陰に位置する仕事なので当然なのですが。
ハリウッド映画や日本映画だけでなく、世界中のさまざまな地域の映画を紹介しているのが、私たち独立系配給会社のひとつの特色です。
その収益から製作者にお金を戻すことで、それは世界中の製作者の次の映画への一助にもなっています。
私は、観ることでその人の生き方や思考になにかプラスになる、それが映画だと思っています。
そうした心が豊かになったり、あることを深く考えたり、他者に想いを馳せたりできるような、世界の良質な映画を紹介したい一心でこれまでやってきました。
これは他の配給会社も同じだと思います。ですから、さまざまな国の映画を観ることができる陰に、独立系配給会社の存在ありじゃないですけど(苦笑)、
実は、映画の多様性を保つこと、世界の新たな才能をいち早く紹介していることなどに、私たちの存在があることを、今回の配信パックで少しでも分かっていただけたらなと思います。
さらにそれぞれの会社の特色を知っていただいて、自分の趣味の合うところがあるようでしたら、その会社が今後配給する劇場公開作品にも注目してもらえたらうれしいですね」
配信パックの作品に込めた思い
自身のセテラ・インターナショナルの配信パックについてはこう語る。
「名監督から、巨匠、新しい才能と個性あふれる監督たちの一押し作品がずらりと並んだかなと。
ロシアの巨匠(アレクサンドル・)ソクーロフ監督の『ファウスト』、ドキュメンタリーの巨匠、(フレデリック・)ワイズマンの『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』などから、ジェラール・フィリップ主演のクラシック映画までさまざまなタイプの作品が楽しんでいただけると思います。
あと、私自身が、作家性もありながら、心が晴れるようなエンタテインメント性あふれる作品が大好きなので、『あしたのパスタはアルデンテ』や『不機嫌なママにメルシィ!』といった良質のコメディ作品も選びました。
外出を控え、家にこもる日々が続きましたから、コメディでパッと笑ってストレスを発散してもらえたらと思います。
今は、世界中の国々がほぼ鎖国状況になっています。その中で、世界の映画を観ることで世界とつながることの価値を感じていただけたらうれしいですね」