1日目の昼が「僕の好きな色物さん」と題して、紙切りの林家正楽、太神楽曲芸の鏡味仙三郎社中から伸び盛りの若手・鏡味仙成、ギター漫談ひと筋、84歳のペペ桜井、音楽パフォーマンス・のだゆきの4組を紹介する。
「色物さんって、寄席ではどちらかというと脇役。こういうホール落語で色物さんにスポットを当てるのは珍しいでしょ。
普段、ホール落語ばっかり観ているような可哀そうな人たちに(笑)、寄席のよさもわかってもらいたいと思って、こういうプログラムを組んでみました」
コロナ禍で、落語家以上に出演機会を失った芸人たちへのエールであることも、書き添えておきたい。
2日目の昼は、「一之輔 天どん 古典と新作二人会」。
「こちらは直感的にやることが多いのに比べて、天どん師匠は理論的に噺をとらえている。
ぼくとは違う考え方で落語を見ている人。新作落語の作り方を教えていたりする師匠ですから、勉強になります。いろいろな会でよく一緒になるんですよ。腐れ縁です(笑)」
3日目の昼は、「一朝・一之輔親子会」。
「最近よく、親子会を企画していただくんですが、こんなこと言ったら師匠に失礼ですけど、緊張感はないです。
楽屋で、師匠はずーっと、ジャイアンツ情報をスマホでチェックしています。ぼくの高座? 聴いてないでしょ。聴いているのかな。
前座のとき、師匠の家にいて、午前中ふたりで、テレビの『暴れん坊将軍』を観ていたときのような、いつも通りの感覚。うちの師匠の大きさです、そこは。ぼくみたいなぞんざいな弟子を、よく怒りもせずに」
ネタ卸はやり終わった後が大事
夜の部は「春風亭一之輔独演会」。毎晩一席ずつ、ネタ卸がお約束である。
ネタ卸とは、今まで自身で高座にかけたことがないネタを初演すること。秋のよみうり大手町ホール公演でこつこつと続けてきた、自分への宿題でもある。
「ネタ卸は、やる演目にもよりますが、公演の2カ月くらい前に、その噺を教えていただく師匠を決めて、その方に稽古をお願いします。
最初は必ず誰かに教わって、というのが落語界のルール。真打になってからもそのやり方です。
覚えること自体は早くて、2日3日もあれば大丈夫。覚えてからの自主稽古のほうがずっと大事で、歩きながら、教えていただいた師匠の音源を聴いて、口に出す。
散歩のときとか、寄席のかけもちで浅草と上野の間を徒歩移動中に、とか。寄席で訪れる上野、新宿界隈でも、歩きながらよく稽古をしていますね。座蒲団に座って家で稽古するというのはもう何年もしたことない」
「ネタ卸の高座は、完成形ではない。初めてやってみて、まずはこんな感じになりました、という機会です。
初演は意外に楽しいものです。お客さんはどんな反応するかな、こんなやり方したら驚くかなとか。むしろ、ネタ卸をやり終わった後、どこかで2回目をやるときが、結構重要。
初演って「よかったよかった」という結果になりがちだから、きちんと、自分の本当の持ちネタにできるかどうかは、1回目の後が大事です」