亜門(鈴木伸之)とのバトルは、5日間オールナイトで撮影された
「ニシキとのバトルは喰種の世界に片足を突っ込んだものの、まだ親友のヒデ(小笠原海)を護りたいという人間の部分が残っています。
初めて自分の肉体から放出する赫子(カグネ/喰種の捕食器官で人間を攻撃する武器)を扱いきれなくて、振り回されている感じを意識しました。でも、亜門との戦いでは完全に喰種に食われている状態ですよね」
特に亜門とのバトルは、5日間オールナイトで撮影されたが、窪田は「3日目あたりからドライ(リハーサル)のときも喰種のマスクをつけるようになりました」と語る。
「でも、マスクで顔が隠れていても表情の芝居を全然休むつもりはなかったし、見えない部分も絶対に伝わるようにしようと思っていました。セリフを言うときも、笑っている感じが声の色や形に出たらいいなという想いで演じていましたね」
そこでは、半喰種であるカネキの覚悟と決意、本作が訴えるテーマが、亜門との戦いの終盤で窪田が見せる上半身を激しく揺れ動かす迫真の芝居、絶叫にも似たあるセリフによって届けられる。
その衝撃はかなりのもので、窪田はこのクライマックスの絶叫を最終完成形と考えてカネキを作り上げてきたのではないか? と思ってしまったほどだ。
「自分の知識やそれまでの経験で成長したカネキが、あの状況の中で選択できる最良のセリフだと思います。だから、大事にしていましたけど、少し力が入り過ぎましたね(笑)」
照れ臭そうに笑った窪田に素顔の顔が見え隠れしたので、最後に本作に絡めて、「喰種のような人肉を食べる怪物はいないにしても、自分を脅かす存在はいると思います。もし、そういう存在が現れたらどうしますか?」という質問をぶつけてみた。
自分を脅かす存在が目の前に現れたらどうしますか?
「そこはカネキと似ているかもしれないですね。あまり戦いたくないし、争いたくもない。似ている人はいると思うし、競争の激しい世界だから誰かと比べられることももちろんあるけれど、それでも自分にしかできないことを大切にしようと思います。
(ここで少し間を置いて)ただ、その自分を脅かす人を遠目には見ているタイプではありますね。絶対に逃がさない。逃がさないというか、視界から外さない(笑)。視野の中にずっと入れていると思います」
だが、その考えは決してネガティブなものではない。
「僕には兄がふたりいるんですけど、真ん中の年子の兄を理想としていて、子供のころから兄の背中を追いかけるように生きてきたんです。
でも、その兄も結婚して子供ができて、その新しい世界で表情も変わった。逆の言い方をするなら、結婚して夫婦になって子供がいる生き方を選んだ人にしか分からないものがある。
結婚していない僕がいくら知ろうとしても、絶対に理解できない感情や価値観がある。そういう人をずっと追い続けていたいと思います」
喰種や彼らを駆逐する人間たちのように相手を倒すのではなく、自らの希望とする。そんな姿勢を貫く窪田正孝の、現時点でのマックスの芝居がスパークする『東京喰種 トーキョーグール』。
ひとりの俳優の最良のパフォーマンスと映画の魂のクライマックスが濃密な形でリンクした本作は、今年いちばんの問題作と言ってもいいだろう。絶対に見逃してはいけない。