“ゴロー役”に込められた、園監督の狙いとは

「園監督は、テストをやらずにいきなり本番に入ったりして、自分がこれまでに演出していただいた監督とはリズム感がまったく違うんです。でも、僕はすごく自分を役の気持ちに持っていきやすいし、そのリズム自体がとても心地よくて。

それに、さっきも言ったように、現場で変わることがすごく多くて。映画の前半はずっと僕のナレーションでストーリーが進むんですけど、昨日、早速“ナレーションをセリフに変えてくれ!”と監督に言われたので、慌てて楽屋で覚えました(笑)。だけど、そういうことがむしろ楽しいんですよね」

撮影:稲澤朝博

園子温の現場を経験した俳優…特に新進の女優の中には監督に追い込まれた人たちがたくさんいるが、「楽しい」という言葉を連発する稲垣はそんな過酷な状況とは無縁だったようだ。

「『ゴロウ・デラックス』に出演していただいたときに、監督が女優さんをけっこう厳しく演出されている映像ばかりがあえて流れたし、過激な映画をいっぱい撮られているので、僕も最初は怖い方なのかな? と思っていたんです。

でも、実際にお会いしてお話をしたときに、怖いとかワイルドといった会う前のイメージとは違って、繊細で、少し女性的と言うか、中性的なものを僕は監督から感じたんですよね。

もちろん、僕は昨日と今日の2日間しか撮影をしていないから、みなさんがどんな経験をされたのか分からないですけど、現場もそんなに体育会系な感じではないですよ」

稲垣がそこまで冷静に分析できるのも、彼が園子温の現場の“水”が合っていたことの証。実は、稲垣が演じるゴローの詳細はネタバレになるので多くは書けなかったのだが、園監督の狙いは何となく想像できる。

それはぶっ飛んだシチュエーションを用意し、ぶっ飛んだ共演者たちをぶつけたときに、彼の中からどんな未知の顔が出てくるのか? という試みだ。

本人も語っているように、園子温監督の手で、私たちが見たことのない“稲垣吾郎”が覚醒するのは間違いないだろう。

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  • 撮影:熊谷仁男
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  • 撮影:稲澤朝博
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映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。