育児休暇、子どものウェルビーイング

── デンマークと日本とでは、税金の使い方や福祉制度なども異なることが多いですよね。

はい。もちろん完璧ではないですが、デンマークでは「システムが国民を守る」という信頼値が高いように感じます。

しかし、意外な事実として、多方面で促進されている育児休暇については、日本の方がデンマークよりも条件が良いことが多いんですよ。

育児休暇に関しては、制度自体は揃っているのに、特に男性はそれを活用する人がまだまだ少ない。デンマークでは男性も育休を3ヶ月など取得することは一般的ですが、日本ではどうしても「今の仕事を離れられない」「休んではいけない」という意識が高いのだと思います。

先ほどの“我慢しない”の話とも通じますが、同調圧力や周囲からの期待に決定権を譲渡せずに、自分と自分の家族の時間を大切にする雰囲気作りに努めるステップに来ているのだと思います。

── 育児という観点から、子どものウェルビーイングについて何か感じることはありますか?

日本の子どもたちが夜遅くまで塾に通い、次の日の授業中に寝てしまうという話を聞いた時は驚きました。

はやく帰って、夜はしっかり眠って、学校の授業で勉強をする。デンマーク出身の私はそれが本質的だと思うんです。

お金を払って、別の場所で重複して勉強するということに対しては「頑張りの質」が的を射ていないなと。苦手な科目があったら学校で質問したり、教えてもらったりして補足すれば良いものなのでは、と違和感があります。

学習塾というのもデンマークにはない文化で、日本の子どもたちは入り口の狭い進学受験のために頑張らなければいけないプレッシャーと生きているのを感じます。

「頑張りの質」に関しては子どもの勉強に限らず、大人の仕事にも言えることですよね。

デンマークでも、もちろん急な仕事や締切があるプロジェクトなどで長時間が働くこともあります。しかし、それは特別な頑張りであって習慣化させるべきではありません。

── 個人のマインドセットからアプローチすべきウェルビーイングと、社会の仕組みからアプローチするべきウェルビーイングがあると。

はい。ウェルビーイングの形はとても多様ですし、今回お話ししていることも、私が思うことの一部なので、もちろん違った視点もたくさんあると思います。

今回のお話では「デンマークのこんなところがウェルビーイング的でいいよね」という話を中心にしていますが、もちろん日本の大好きなところや尊敬している社会の側面もあります。

実は私も、経営している会社でデンマーク式の働き方を実装できるように、試行錯誤している段階なんです。いろいろと理想論を語ったあとに、現実とのすり合わせをする。とても骨の折れる作業ですが、挑む価値のある挑戦だと信じています。

【インタビュー後編へ続く】