赤ちゃんと、ママの安心のために。地震が来る前のいま準備しておきたいこと

かもん:熊本地震の発生から5日後、熊本市内の小学校の体育館に設けられた避難所を訪れたのですが、驚いたのは赤ちゃんや子どもたちがいなかったこと。周りに迷惑がかかるからと、車で寝泊まりする車中泊や、自宅前や庭にテントを張っての「軒先避難」でしのいでいる親子が非常に多かったんですね。

避難所は不特定多数の人が否応なしに一緒に暮らす場所ですので、赤ちゃんやママの感じるストレスを考えると、避難所外で生活する選択ができるのであれば、それもひとつの方法だと思います。

避難所は赤ちゃんやママにとって、決して安心安全な場所ではない。実際に「防災ママカフェ®」では、自宅から避難しないことを前提とした備蓄をお教えしているくらいです。

――ではもしママが赤ちゃんと避難所に行かなくてはならない場合を想定すると、何を考えておいたらよいでしょう?

かもん:行政の備蓄の基準は「成人男性」。水や毛布など、誰でも使うものを備蓄しています。粉ミルクやおむつ、離乳食、生理用品、アレルギー対応食品、薬など、使う人が限られているものは、必要数備蓄されていないと考え、各家庭で準備してください。

母乳のママでも、被災時はストレスで母乳の出が悪くなることもあるので、粉ミルク(計り要らずのキューブタイプが便利)や水、使い捨てほ乳瓶など、ミルクを作って飲ませるために必要なものは必ず用意してください。

水をお湯にする道具、簡易加熱剤と袋(モーリアンヒートパックなど)も必要ですね。防災ママカフェ®でも、ご飯を温めるのにいつも使用しています。

清潔、ということで言えば、近々認可・販売される見込みの液体ミルクを準備してもいいかもしれませんが、いざ被災したときに機嫌よく飲んでくれるかどうか分からないので、必ず事前に試飲させてあげてほしいと思います。

母乳のママなら避難リュックの中に「授乳服」を入れておくのもいいでしょう。胸やお腹が露出せず、授乳していることを周りに意識させることもないのでより安全ですし、胸をあらわにした授乳姿に抵抗がある周囲の方々への配慮にもなります。

赤ちゃんがぐずることも減り、ママのストレスも軽減されますね。

「自然」とは、人間の「想定」をはるかに超えたもの

かもん:でも、防災教育を進めていると「どうすれば絶対助かりますか?」とか「どんなリュックが一番いいですか?」というような質問をしてくる方がいらっしゃるんです(笑)。

「相手は自然。そんな100円入れたら缶ジュースが出てくるような『人間が予想する流れに沿って事態が動き、結果も予想通りである』なんてことは、絶対ないですよ」とお答えしています。

――絶対ない、ですか。

かもん:自然を完全に管理すること、「災害」をすべて想定することなどできるわけがありません。

「災害」というのは地球や生命の大いなる営みであり、人間の力ではどうにもできないことばかりです。そもそも地球の46億年の歴史に対し、人類はたった700万年の歴史しかない。地球のことだって、地震のことだって、まだまだ人間には分からないことだらけです。

――人間だって自然の一部、ということですね。

かもん:東日本大震災で、真っ黒な大津波から赤ちゃんと一緒に命からがら逃げ切ったママは「あの時の私は”野生”だった」とおっしゃっていました。

生と死、生きることと死ぬことの境目が、もう紙一重で、どこでどうなってもおかしくなかった。“野生のカン”で様々な状況判断を繰り返し、何とか生き抜いたんだと。

これはすごく大切なことだと思います。世界のすべてを人間が管理できていると錯覚し、自然との共存を忘れて生きている社会というのは、突然起こる「災害」という“アンコントロール”(制御不能)な状態に対し、とても弱くなってしまう。

日本は、地下でプレートがひしめく「災害列島」です。私たちの暮らしは管理できない大いなる自然の上に成り立っていて、人間だって「“動く家=地球”に住まう生き物」に過ぎないんだということを自覚しておいた方がいい。

地球は人間が滅びても痛くもかゆくもないですが、逆は困るワケで、そういう意味でも人間の立場は本当に弱いものです。

その点では「災害」と「授乳」や「赤ちゃん」は似ているのかもしれません。

――「災害」と「授乳」「赤ちゃん」が、似ている?それはどういうことでしょうか。