2016年4月に開校したDeNA Running Clubアカデミー。
DeNA というと瀬古利彦総監督率いる実業団のトップチームとして有名だが、その下部組織が中学生と小学生を対象としたDeNA Running Clubアカデミーである。
長距離選手育成のための実業団による下部組織チームはDeNA以外の例を見ない。
日本の長距離が世界で戦えなくなって久しい中、小学生・中学生世代を対象としたDeNA Running Clubアカデミーがどのような目的やビジョンを持って活動しているのか?どのようなことを意識しながら指導しているのか?今回はRunning Clubアカデミーの田幸ヘッドコーチに話を伺った。
※DeNA Running Clubアカデミーの姿を2回にわたって掲載、VOL.1はU-15を中心に紹介します。
DeNA Running Clubアカデミーが生まれた背景
ーDeNA Running Clubアカデミーが生まれた背景を教えていただけますか?
田幸:これまで実業団と大学の陸上部において世界の舞台で戦う選手を指導してきた中で「大学を卒業し実業団で預かってからの10年間という期間の中だけで、世界で戦っていくことに限界があるのではないか?」と感じてきました。
世界で戦っていくためには、もっと広く、深く指導する方法はないのかと考えるようになりました。
その方法論として、下(ジュニア)からの育成で一貫した指導を行うことで世界への扉が開けるのではないか、ということがアカデミーをスタートした理由です。
縦割り指導による強み
-これまで実業団や大学生を中心に指導されてきたわけですが、U-15の指導と違いを感じる部分はありますか?
田幸:実業団や大学での指導というのは、中学・高校あるいは大学である程度完成した選手をどう伸ばすかということが主体でした。
DeNA Running Clubアカデミーでは、選手としてある程度完成する前に出会うことにより、選手の成長過程を理解しながら指導することができることが大きな違いです。
また、中学・高校・大学などの世代で区切られるのではなく一貫した縦割りの指導ができるということが強みになると思っています。
-「縦割り指導」についてもう少し具体的に教えてください
田幸:中学生男子は身体的に大きく成長します。すでに出来上がった状態しか知らずに指導するのと、身体の成長に合わせて、動き(走り方など)が変わっていくときに、どのようなキッカケでその選手が変わったのか知っているということは、それを直すべきなのか、伸ばすべきなのか考える判断材料になると思います。
アカデミーの強みの一つは、選手の成長過程を長期間に渡って見ることができることだと思っています。
体力や技術の部分を含め、性格や精神面、競技への考え方やそれぞれの課題に関しても、じっくりと指導できることは指導者にとって大きな強みです。
親御さん以外で、その子の成長を知っている存在がいることは選手にとって非常に重要な事だと思います。
例えば走り方の癖などは、長い時間をかけて選手自身も知らず知らずのうちに身に着けてしまうものです。
より強くなるためにその癖を直そうと思ったとき、その発生の過程や経緯を知っているかどうか、ということは指導者にとってとても重要です。
大人になって出会ってから本人や過去の指導者に聞いても、わからないことがあったりするのです。
本当に強い選手に育てるのであれば、直さなくてはいけない部分は直さなくてはならないし、今は直さず先送りするなら、先送りできるシステムができていることが必要だと思います。
アカデミーでの一貫指導では、いまはまだU-12,U-15しかカテゴリーがないですが、いずれより広範囲の世代に広げた際には、それが可能だと考えています。
-各学校の陸上部との棲み分けについてはどのように考えていますか?
田幸:自分自身も中学校・高校の陸上部、そして大学では箱根駅伝という中で成長してきましたので、それぞれの良さを知っています。
アカデミーは中学・高校の陸上部と別の存在として活動するつもりはありません。むしろ学校の陸上部と共に選手の成長を高められる方法があると信じて、共存を目指しています。