監督がこだわった田中圭との“距離感”
――監督に現場で言われて、印象の残っていることはありますか?
「細かく何かを指示されることはそんなになくて。
監督自身も現場の隅っこで体育座りになって、ああでもない、こうでもないってずっと悩みながら撮っていたし、『どうしましょうか?』って言われて一緒に考えることも多かったです。
ただ、こういうところが分かるから、優しい映画ができるんだろうな~と思ったときが一度あって。
ラーメン屋に来ていた夏目さんが、後ろの席のカップルのいざこざを聞いていて泣いてしまうシーンで私がティッシュの箱を差し出すんですけど、監督から『このティッシュの距離感はどのあたりがいいでしょうね』って聞かれたんです。
私も大雑把なところがあるので気づかなかったんですけど、その物を渡すときの距離感からふたりの関係性は確かに伝わると思うし、そういう細やかなところが分かる今泉監督の作る映画だから、女性もハッと気づかされることが多いんじゃないでしょうか」
――ラストシーンの距離感や間合いも絶妙です。
「そうですよね。あの近過ぎず、離れ過ぎずっていう距離感がこのふたりなんですけど、それも今泉監督だから出せる距離感だと思います」
――ラストシーンの前に、クスッと笑えるエピソードを入れるのも今泉監督ならではですね。
「そうですね。最終日の閉店間際にあのおじさんが入ってくるシーンは本当に面白かった(笑)。
そのシーンもそうですけど、『mellow』(メロウ)はひと言ひと言日常感に溢れていて、居心地がいいと言うか、見心地がいい。
最初から最後までタッチが柔らかくて、優しい気持ちになれるし、前向きになれる映画だと思います」
田中圭はイメージを裏切らない
――田中圭さんとの共演はいかがでした?
「田中さんはすごく明るくて、フランクで、テレビで拝見していた通りの方と言うか、とにかく優しいです。
現場でもぐいぐい引っ張っていってくださると言うより、動きやすくしてくれる感じで、その背中を押してくれるような優しさが私は心地よかったです」
――あっ、こういう一面もあるんだ?って思ったような意外な発見はなかったですか?
「意外なところ? 何だろう? でも、本当にそのままなんですよ。イメージを裏切らない。裏表がないんでしょうね。
午前中はボ~っとされていることもあったので朝は弱いのかな~? と思ったけれど、それ以外はテレビで観たまんまの元気で明るい方でした(笑)」
――田中さんとのお芝居で印象に残っていることは?
「ご一緒したのは実は3、4日ぐらいだけなんですけど、近い距離感でお芝居ができたのがすごく嬉しくて。
ラストシーンの私が空を見上げながら『あっ、飛行機!』っていうあるシーンで、カメラの後ろで台本にないセリフを言ってくださったのが印象に残っています」
――そのとき、田中さんは何て言われたんですか?
「何て言ってくださったのかちょっと思い出せないけれど、その場を和ませるような言葉だったと思います。
だから、私も自然に笑ってしまって。あの最後のシーンは私もいろいろ考えながら演じていたんですけど、田中さんがそうやって和ませてくれたおかげで、柔らかいものになったんです。
田中さんは、そうやって、いつも優しく引っ張ってくれていたんですよね」
自分の恋を振り返って、このとき自分だったらどうする? みたいなことをきっと考える作品
――『愛がなんだ』は観終わった後に女性同士で恋愛談義に華を咲かせていましたが、『mellow』(メロウ)はどんな話題で盛り上がると思います?
「『愛がなんだ』はいろいろな登場人物がいて、その人たちの恋愛の仕方の違いが面白かったと思うんですけど、今回は恋愛の仕方と言うよりも、さっきの自分の想いを伝えるのか? 伝えないのか? という話とも繋がりますけど、自分の恋愛を振り返って、このシチュエーションのときに自分だったらどうする? みたいなことをきっと考えると思います」
――また盛り上がりそうですね。
「そうですね。その時々の恋愛に対する自分の考え方は絶対に話し合うと思います」
役の日常を自然に生きられる女優になっていきたい
――ところで、岡崎さん自身は今後、こういう女優になっていきたいとか、当面のビジョンみたいなものはあるんですか?
「そうですね。今泉監督の作品が象徴的ですけど、女優として、そこで描かれる日常に存在する人であることはすごく重要だと考えていて。
そこの役の人にとっては、そのすべてが日常なので、そういう人になりたいなって常々思っているんです。
それこそ、自分でも違和感がない状態でいるのが本当の形だと思うし、その境地まで行けたらスゴいですよね。
今泉監督の今回の作品はその世界観を知る第一歩だったけれど、これからもその役に馴染む力を磨いて、役の日常を自然に生きられる女優さんになっていきたいと思います」
――そういう意味では、『mellow』(メロウ)のラーメンを作るシーンは自然で、本当にお店の人が作っているみたいでした。
「本当ですか?(笑)あれはもう本当に、撮影で使わせてもらったラーメン屋さんの店主の方に特訓してもらって、あのレベルにしてもらったんですよ(笑)」
本人は「私と木帆は性格がまるで違うから、彼女に憧れる」と言っていたけれど、映画の木帆は本当にあの街でラーメン屋さんを営んでいる女店主に見えなかったから、そのコメントはちょっと意外だった。
逆に彼女の言葉がテレではなく、本当だとしたら、それは岡崎紗絵という女優が、木帆としてちゃんと『mellow』(メロウ)の住人になっていたからにほかならない。
あの街に行けば会えるんじゃないかな? そんな自然さを纏った彼女を、ぜひスクリーンで目撃して欲しい。