どうしてそんなに女心が分かるの?
『愛がなんだ』(19)、『アイネクライネナハトムジーク』(19)などの話題作を次々に大ヒットさせて、恋愛映画の旗手として注目を集める今泉力哉監督。
今年も監督作が公開ラッシュになる同監督の映画は、女性の繊細な心の動きを伝えるリアルな描写とセリフの数々がとにかく魅力的で、そこが女性ファンの共感を呼んでいる。
でも、今泉監督は男性なのに、どうしてそんなに女心が分かるの? なぜ、あんなに生っぽいセリフが書けるの?
そんな数々の謎を解き明かすべく、自身のオリジナル脚本を映画化した『mellow』(メロウ)が公開になる今泉監督を直撃!
『mellow』(メロウ)は田中圭が演じるオシャレな花屋「mellow」の店主・夏目を軸に、さまざまな一方通行の恋を描いた片想いムービー。
その中には、ちょっと驚愕しちゃう恋のエピソードも出てくるけれど、今作でも純粋すぎる真っ直ぐな恋が描かれていて、観る者の心も揺らす。
果たして、このオリジナルのストーリーはどこから生まれたのか? そこを皮切りに、今泉力哉監督ワールドの秘密、監督のこだわりや眼差しの先にあるものにじっくり迫ってみた。
『mellow』は、田中圭ありきで始まった企画?
――今年は今泉監督の作品の公開ラッシュですけど、撮影した順番は?
「『mellow』(メロウ)は実は2018年の12月に、『愛がなんだ』の次に撮ったんです。
なので、撮り順としては『アイネクライネナハトムジーク』、『愛がなんだ』、『mellow』(メロウ)、『his』(1月24日公開)、最後が『街の上で』(5月1日公開)という下北沢が舞台の映画なんですけど、ここ数年、有り難いことに、自分でもちょっとよく分からない忙しい状況が続いていますね(笑)」
――今回の『mellow』(メロウ)は、これは田中圭さんありきで始まった企画なんですか?
「もともとは田中圭さんありきじゃなく、話をいただいてゼロから脚本を書き始めたものなんですけど、何の縛りもなかったから、逆に何の縛りもない大変さもあって、最初は全然書き進められなかったんです(笑)。
そんなときに、今回、花屋の監修で入ってくれた方のお花屋さんがこの映画の「mellow」に似た、セレブの方の玄関や店舗のショーウィンドウのフラワーアレンジメントをしたり、土日はウエディングの花をやっている、すごく絵になるお店だったから、物語のきっかけになるかなと思って。
それで、そういうお店と、どちらかと言うとさびれている老舗のラーメン屋の二軸を置いて、普通は花屋を女性が演じそうですけど、そこは男女を入れ替えた話にしてみようと思ったのが着想の最初ですね。
あとは、周りの人をそれに付随して置いていったり、登校拒否の子供が出てきますが、あれは一時期、うちの子供が登校拒否になっていたのがヒントになりました。
でも、登校拒否って、頭で考えると、休んでいるときも暗く描きがちですけど、うちの子は休んでいるときは全然平気で。
だから、あっ、不登校のリアリティってこういうことなんだって思いながら、そのへんを取り入れつつ、組み立てていきました」
――それで、書いていったら自然に片想い合戦になっていったんですね(笑)。
「あっ、そうです(笑)。書けないまま進んでいたんですけど、『パンとバスと2度目のハツコイ』(17)を撮ったチームで今回も作ったので、『好きに作っていいよ』って言われたときに自然と恋愛の話になっていって。
そればっかり書いているから、もうそっちしか書けなくなっているのかもしれないんですけど、コミカルな要素も含めて、そんな感じでまた恋愛をめぐる話になっていったところはあります。
あとは本当に、『愛がなんだ』や『アイネクライネナハトムジーク』の公開前でしたけど、どこかで今回の女子中学生たちのような同性同士の話や結婚している人が誰かを好きになったり、さっきの不登校の問題とか、周りから咎められそうな人たちを登場させ、だけど、それを誰も言及しなくて、当たり前のように存在させるということを意識的にやっています。
咎められそうな人を普通に存在させると、すごく優しい世界になっていくと思っていたし、その人たちを認めるとか肯定するって言うと偉そうですけど。、実際、当たり前に存在していると思っています」
なぜ、あんなに面白くて生っぽいセリフが書けるの?
――今泉監督は、例えば『知らない、ふたり』(15)では、人が人を好きになるとはどういうことなのか? やそこに対する考え方の相違、ひと目惚れってあり得るのか、みたいなことを描かれてましたけど、今回は、片想いのときに相手に告白するか? しないか? というエピソードが面白いなと思いました。
岡崎紗絵さんが演じられたラーメン屋の女店主・木帆ちゃんは自分の置かれた状況的に「告白するのはエゴだから」と言うし、女子中学生の宏美(志田彩良)は、田中圭さんの演じられた夏目さんに告白はするけれど、返事を求めない。
今泉監督はなぜ、あんなに面白くて生っぽいセリフが書けるんですか?
「俺、自分の実体験をけっこう曝け出すように作っていて、恋愛の数は少ないけど、少ないが故にいろんなことを覚えているんです。
例えば、告白逃げみたいなことも経験したことがあって。
小学生のときの卒業式で、クラスのヤンチャな男の子が好きな女の子に告白したかったんですけど、自分だけ告白するのがイヤだからという彼に巻き込まれた5人で好きな子に告白しようという話になったんです。
で、ジャンケンして負けた奴から卒業式で順番に告白していこうみたいな話の中で俺、いちばん勝っちゃったから、卒業式も終わって、父兄も校庭に広がっているタイミングで告白することになって(笑)。
で、絶対にダメだと思っていたし、ビビっていたから告白して逃げたんですけど、その女の子とは中学校も一緒だったから、めっちゃ気まずかったし、その子とヘンな距離になってすごくイヤだったんですよね。
そういう告白しても返事を求めないとか、言ってもどうせダメっていう感覚は、そのときだけじゃなくて大人になってからもあったので、宏美に投影させて。
『mellow』(メロウ)ではそういう自分の経験をほかのシーンでもちょいちょい入れています」
――監督の経験が反映されているとは思いませんでした(笑)。
「いろいろな恋愛映画があると思うんですけど、例えば“パンバス”では相手のことを一生好きでいられるか分からないし、相手も自分のことを好きでいてくれるか分からないみたいなことを思っちゃって、結婚に踏み切れずにやめちゃう人が主人公だったんですけど、俺は考え過ぎちゃったり、それを言ったら何もできないじゃん、みたいな足踏みをしている人に興味があるんです。
そういう、みんなが言わないようにしていることをなるべく主題にすることが多いですね。
でも、それって答えが出ないことなので、映画にしたときに、みんながもう1回考えるのかなって思っているんです。
これは、どこかで読んだことなんですけど、誰かに相談したり、2、3人で話して解決するような問題は映画の主題にならない。大勢で考えても答えが出ないことこそが映画にすべきことで。
そうすると答えがないので、観終わったときに『私はそうは思わない』とか『そんなこと考えなくてもいいじゃん』っていう人が出てきて、いろんな議論になるんです。
恋愛もこうしたらうまく行くという正解がないので、映画で描き続けられるのかもしれないです」
女性の繊細な心の動きがなぜこんなに分かるの?
――先ほど監督の実体験が反映されているという話はお聞きしましたが、女性の繊細な心の動きがなぜこんなに分かるんですか?
「自分には姉と妹がいるんです。まあ、ふたりの恋愛話も聞いたことないし、自分もしたことはないんですけど、男性兄弟しかいない監督の友だちと違って、女性を崇めるような感覚が自分にはなくて。
だから、汚い部分も描けるのかもしれないです。
あと、セリフに関しては、俺が女性から言われた言葉をまんま使っていたりするんです。
だから、俺から出てないと言うか、女性から出た言葉をただ使っているだけなので、別に女性の言葉や気持ちが分かるわけではなくて。
『mellow』(メロウ)でも昔の彼女に言われた言葉を使っているんですよ」