まず、初日に合わせて稽古を重ねて、作品をブラッシュアップしていって。次に、本番に入ったら千穐楽に向けて、皆がさらにブラッシュアップをしていくんです。そこが「生もの」といわれる舞台やミュージカルの、醍醐味のひとつでもあると思うんです。

それだけに、中止になってしまった残りの13日間で、まだまだ進化し続けられた作品だと思っていて。そこは悔しいところでもあるんです。だから、悔いがないと言ったらウソになる。

でも、本当に1公演、1公演、自分自身も、皆も、大切に演じていた作品だったから。毎公演、“やりきった”って思えていたので。そういう思いで臨めていた作品でよかったと思うんです。それだけが救いというか。

ただ、大好きな仲間たちと“もう一緒にできないんだ”っていう思いはあります。舞台は、まったく同じメンバーが集まることは二度とないだろうから。余計に思いが強いんです。

ダブルキャストで、最後になってしまったその日の舞台に立っていなかった人たちも、5人いたわけで…。その人たちのことを思うと、もう…。

舞台に立っていた側も、その日が最後だと思っていなかったけど、「あの日が最後だったの? 2日前の公演が??」っていう方が、絶対に辛いと思うんです。

--演じる側の気持ちとして、佐江ちゃんは、最後の公演だと聞かないまま舞台に立てたのはよかったと思いますか? それとも、舞台に立つ前に聞いていた方がよかったのか。

聞いていなくてよかったと思います。千穐楽なら日にちもわかっていて、演じる側もそう思って舞台に立つけれど。もし突然「今日が最後です」って言われたら、プロは何があっても動じちゃいけないと思うけど、やっぱり動揺するし、緊張もすると思うんです。

もちろん人によっては、“最後だって聞いていたら、もっとできたのに”って、思う人もいると思うけど、私は、“今日が終わりだったんだ”って、後で思うくらいの方がよかったと思う。

そう考えるとやっぱり、いつも気にかけていたことではあるけれど、「1公演、1公演を大切にする」ことがいかに大事かを、今回、改めて考えさせられました。

ずーっと同じことを繰り返していると、慣れてきちゃったり、「今日は気持ちがのらないな」っていう感情が生まれてきちゃったりすることが、どうしてもあると思うんです。あと、体調も、女性は特に変化があったりするから。

「ああ…、この体調の悪さに、気持ちを全部持っていかれそう」って、ロングランのミュージカルをやっているとやっぱり避けられない。でも、

「そんなのに惑わされていちゃダメだ!」

って、改めておケツを叩かれた感じがしました。コロナのせいで!(笑)

「当たり前はない」

ということを、今回のことですごく感じました。普段は感じられないことを、いっぱい感じることができました。

--中止になってしまったことも含めて、忘れられない作品になりそうですね。本当に意味のある作品に出演しましたね。

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