いきものがかりはこの4月、デビュー時から所属していた事務所を離れ、自分たちのマネジメントオフィスを設立して、新しい活動をスタートさせた。が、その矢先、コロナ禍に見舞われ、思い描いていた展望は少なからず修正を余儀なくされただろう。ここでは、リーダーの水野良樹に、この状況下で感じたこと、そして考えたこと、そしてその先に見すえるグループの未来について聞いた。
2回にわたって掲載する前編は、8月31日にリリースされ、チャート1位を獲得した配信シングル「きらきらにひかる」に込められた、今の社会に対する水野の思いを語ってもらった。
つらいとか苦しいことがあれば、手を挙げて言ってもいいんじゃないか
――いきものがかりはこの4月から独立して新体制での活動を始めたわけですが、水野さんのなかで“リスタート”という感覚はありますか。
水野 前の事務所には約15年間お世話になったんですけど、そこから独立して歩み始めるというのは、やっぱりリスタートではありますよね。自分たちでやるようになって初めて目にする資料もあるし(笑)。お金の面でも初めてのことはあるし、外部のスタッフとやりとりする場合にも直接、話をすることがどんどん増えてきているし。グループの活動を進めていく上での細かいことを、新鮮味を持ってやれているという意味ではリスタートだなと思いますね。
――そのリスタート感、つまり、ひとつ区切りをつけて新しく始めるということの中身は、あらかじめ予想していたことがどれくらい当たっていて、どれくらい想定を超えている感じですか。
水野 コロナのことがありますから、ほとんどは想定外ですよね。本当だったら、春からツアーを始めて「リスタートしました。自分たちで新しく歩み始めました」ということを、ファンのみなさんと直に会って伝えていくことになってたわけですから。
そもそもライブをやると、自分たちが活動しているという実感をすごく持てるんですよ。それがないということのむず痒さというか、力が入らない感じというのはすごくありましたから、それが一番想定外でした。
――そういう、歌を直接届けにいけないという状況のなかで新曲をリリースするという意識は歌詞やメロディに何か影響を及ぼしますか。
水野 人と人がバラバラな状態になっているとか、気軽に出かけることができなくてマスクをつけたり感染予防に気をつけたりしないといけないとか、世の中の空気が以前とは変わっているということが確かにあるわけで、そのなかで曲を書いていると、そのことを意識せざるをえないですよね。
自分もひとりの生活者として、例えばウチの両親は神奈川に住んでいるんですが、ふたりの年齢を考えるとちょっと会いにいけないなと考えるわけです。でも、会いにいけないこともちょっと心苦しかったりして、そういう気持ちをみなさんが抱えていると思うんです。そういう意識というのは、やっぱり歌詞に影響してきますよね。
――その結果として、どういう歌が出来上がってくることになるんでしょうか。
水野 いろんな形があると思うんですが、例えば「きらきらにひかる」で言えば、今みんなはこのバラバラな状態に慣れてきていると思うんです。しかも、この状況に対処することが上手くなってきている。それはそれで素晴らしいことだとは思うんですけど、本当は助けを求めたいとか人にちょっと甘えたいとか、そういう気持ちになるような厳しい状況に置かれている方も少なくないと思うんです。
でも、そういう状況にあることを主張しづらい空気感があるなということを感じていて、その助けを求めづらい空気が蔓延してしまうのはよくないなと思うんですよね。つらいとか苦しいことがあれば、それは手を挙げて言ってもいいんじゃないかという思いは歌詞の中には入ってますね。
それに、こういうふうに誰もが緊迫した状況にあると言葉もすごく尖っていくし、それでなくても何かズルした人とか、何か倫理的によくないことをしてしまった人に、みんながすごく厳しい言葉を投げかけるじゃないですか。
完璧な人間なんていないんだから、誰だってひとつ間違えれば同じような失敗をしでかす可能性があるのに、失敗した人、間違った人をよってたかってみんなが叩いている。それは嫌だなと僕は感じているんですけど、そういう気持ちもあの曲の歌詞には反映していると思います。そういう意味では、今の世の中に対する僕なりの思いみたいなものがかなりストレートに表れている曲かもしれないですね。