やりたくなかったことは全部やらずに終われた

松澤和輝(イラストレーター・猪又役)/『マーダー★ミステリー~探偵・班目瑞夫の事件簿~』

松澤 でも、撮影を終えて最初に思ったのは、自分は結局、周りの人たちに転がされていたんだな~っていうことでした(笑)。

撮影後に両角さんがボソっと誰かに言った、「俺は、やりたくなかったことは全部やらずに終われたからよかった」という言葉も印象に残っています。ハッとしたんです。

僕は自分がやりたいことはいっぱい決めていたけれど、やりたくないことは全然決めてなかったので、一人称の“僕”や“俺”、“私”と“自分”、“僕”というワードをいっぱい使っちゃっていたんですよ。だから、両角さんの話を聞いたときに、やりたくないことをもっと決めておけばよかったな~ってすごく反省しました。

両角 そんなこと言ったっけ、俺?(笑)

斉藤 言うと思った(笑)。

両角 と言うか、僕も劇中のトラップにことごとくハマった人間で、それこそある人物が途中から犯人にしか見えなくなっちゃったから、それにどう反応すればいいんだろう? という戸惑いがあったんですよ。

清水 ふたりとも互いに疑い合っていて、すごく緊張感があったよね(笑)。

両角 いや~、僕はその人のことを、その人も僕のことを犯人だと思うような仕組みができていたんですよね。

疑うだけではなく、信頼感がないと作れないドラマ

――犯人探しとは別に、みなさんが演じられた人物はそれぞれ人には知られたくない秘密を持っています。そこを突っ込まれたときは、どんな回避の仕方をしました?

斉藤 俺はね、本当、清水さんと占い師の白鳥を演じた(はなむら)ちこちゃんに声を大にして言いたいんですけど、僕が演じた竜崎の秘密を暴くあのタイミングは早過ぎましたよ!

斎藤佑介(記者・竜崎役)/『マーダー★ミステリー~探偵・班目瑞夫の事件簿~』

清水 僕もいきなり、みんなにちょっと疑われたから、矛先を変えたかったんですよ(笑)。でも、演じなから、こういう流れで冤罪というのは起こるんだなと思いましたし、必要以上に抵抗したから、謎解きをより迷走させてしまったところはあるかもしれないですね。

斉藤 いやいや、あのときの清水さんは目が笑っていました(笑)。

松澤 僕の場合は、途中である秘密を斉藤さんにバラされました。突然口走って「あっ、言っちゃった、ゴメン」とかって(笑)。

斉藤 いや、すみません。なんか、つい言っちゃった(笑)。

松澤 いや、それで、僕は話が広がっていけばいいかなって思ったんですけど、暴かれた秘密にみんなが食いついたのは10秒ぐらいで、すぐに流れちゃったんですよ(笑)。

斉藤 (爆笑)

―――ほかにも、ここでこんなことやる? みたいなことを仕掛けてきた人はいました?

清水 強いて言うなら、自分かな。途中で色々分かんなくなって、関係のない穴をいっぱい堀りましたから。みんなを、だいぶ混乱させたと思います(笑)。

――はなむらさんは「清水さんが執拗以上にぐいぐい来た」って怒っていましたよ(笑)。

清水 いや、かなり攻めたので、マジで怒っていました。撮影が終わった後に、素で文句を言いに来たぐらいですから(笑)。でも、あのときの僕(熊田)はある人を守りたくて必死だったんです。それで、ちょっと頑張り過ぎちゃったんでしょうね(笑)。

斉藤 みんなが口々に「俺が犯人だ」「私が犯人だ」って言い始めたところもヤバかった(笑)。俺も乗っかった方がいいのかな?って思ったけれど、ますますワケが分からなくなるなと思って……。

清水 誰もダチョウ倶楽部みたいに「どうぞ、どうぞ」って言わなかったからね(笑)。

――みなさんの芝居のスキルやこれまでの経験が活きたところもあったと思いますが、そのあたりはどうでしょう?

『マーダー★ミステリー~探偵・班目瑞夫の事件簿~』

斉藤 「マーダーミステリー」はほかの人を疑い続けるから距離感がすごく出るんですけど、7人で脚本のないドラマを最終的に完成させるためにはチームワークがすごく大事だと思います。そういう意味では、みんなをある程度、信頼していないとできない。周りの人のことをちゃんと見ることも必要だと思いました。

清水 本当にその通りだと思います。ひとりで作っているわけではないですから。ほかの共演者やスタッフ、作家さんや視聴者もそうですけど、自分が思っている以上のことを見たり、気づいたりしている。そうやって、みんなが自分を超えたところでひとつのストーリーを作っていくところに「マーダーミステリー」をベースにした今回のドラマの面白さがあるような気がしました。

両角 僕は今回、セリフを練習して芝居に臨むいつもの仕事と違い、裸で現場に行くような感覚だったんですけど、それでもやっぱり、自分が見てきたものやどういう風に生きてきたのか? ということが言葉に出ちゃって。そういうものが自然に出ちゃう面白さを感じました。

松澤 僕はこれまで、役の人物を僕自身に置き換えて台本のセリフを読むことがほとんどだったんです。でも、今回の台本を貰ったときは読む前から、与えられた役の人物=猪又になって読まないと演じられないな、と漠然と思って。

“猪又の人生は、俺の人生なんだ!”という意識で読み始めたんですけど、撮影のときも僕、松澤和輝の感情が動くというより、猪俣の感情で動いているという実感がすごくあったので、それがすごく新鮮でした。いままでに経験したことのない、今後にも活かせるような感触と充実感がありましたね。