「台詞が全部本当のことを言っているとは限らない」

撮影/川野結李歌

――谷さんはどのようなシラノ像を求めていて、古川さんはどういう人物として立ち上げたいと考えていらっしゃいますか。

古川 たとえばひとつのセリフにしても、一色の絵の具で塗りつぶせないものがあまりにも多いんですね。シラノって、複数の色が混ざった言葉を吐き、複数のお面を顔の三方につけて首をくるくる回しながら生きているような人なので。

それでも、この人の真ん中にあるもの、本質は何かしらあるはずじゃないですか。そこは忘れずにいたいけれど、人に対してどう振舞うか、いわゆるペルソナの部分が、シラノを演じるにあたって重要だと考えます。

この時はあえて笑っているんじゃないか、この時はめちゃくちゃ怒っているんじゃないか、でも怒りながら自分の境遇を悲しんでいるんじゃないか……というふうにひとつずつ掘り下げていくと、本当に複雑な役だということがわかる。なので、人物像をひとことで……というのは、今回はなかなか難しいですね。

撮影/川野結李歌

言葉で攻撃し、言葉を盾にして、自分をどんどん隠している人だと思うんですけど、本質としてはとてもピュアで、ものすごく弱い人間なんだろうなと感じています。観客の方々もそれぞれにいろんな想像をして、いろんな風にシラノを見ると思うんです。

最終的に彼は何だったんだ!? ってことも、正直まだ自分でもわからなくて。ひとつの答えに決めるべきなのか、決められるものなのか……、ちょっとまだ考えているところです。

また、お客さんに対するなぞなぞみたいなところもあるだろうなと。台詞って、全部本当のことを言っているとは限らないんですよね。その人が虚勢を張っていたり、嘘をついていたり、隠していたりしてしゃべっていることもあるし。

とくに今回のシラノは、古川さんも言ったように「これが本音だ」ということをしゃべるシーンがすごく少ない。シェイクスピアのモノローグが自分の悩みを全部説明してくれるのとは違って、結局シラノは何を考えていたんだろうな〜というのは、かなり巧妙に隠されているんです。

当然我々は「きっとこういうことを考えているんだろうね」と話しながら稽古をしていきますが、舞台上ではそれは語られないので。お客さんが古川さんの演技と言葉を頼りに「あの人、本当はどう思っているのかな」と想像する、そういったなぞなぞ的な要素があると思っています。