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これまでと違う道を歩んでいく上で、道しるべとなったのは、ずっと強く感じていたという一人の女性としてのユキノへの“共感”だった。
「コンパクトを落としてファンデーションが粉々になってしまう、それだけの描写でなぜか涙が出てきました。ユキノが自分と向き合い、戦い続ける中でタカオくんに出会い、動かされていく。それをユキノ目線で追いかけつつ、どこかで等身大の私と重ねて演じているところはあったと思います」。
偶然誰かと巡り合い、互いのことを何も知らぬまま、いや深く知らぬからこそ心を許し、惹かれ合っていく。そんなシチュエーションに憧れを抱く気持ちは? そんなこちらの問いに、「そうですねぇ…」と恥ずかしそうに柔らかい笑みを浮かべる。
「実際に舞台になった庭園を歩いてみたんですが、本当に出会ってしまいそうに思えるんですよね。つい最近、あるスタジオに行くために地図を手に歩いてたら、サラリーマンの方が『どちらに行くんですか?』って声を掛けてくださったんですよ。『もしやここから?』と思ったんですが、もちろん何もなく…(苦笑)。でもそういう偶然が自分の近くにも転がってるんじゃないかという期待は持ち歩いてます(笑)」
そぼ降る雨、そしてユキノが去り際につぶやいた万葉集に収められた一篇の歌――言の葉”が2人を引き寄せる。花澤もまた言葉に命を吹き込むことを生業とする人間。本作を経て、改めて言葉に対する思いを強くしたという。
「新海監督の作品で使われるのは、普段から使うような何でもない言葉ばかりなんですが、シチュエーションによって重くなったり強い共感を生む。私自身、取材を受けながら『何て陳腐なことを…』って悩むことがよくあって(苦笑)、ちゃんと使えば、言葉って本当に伝わるものだと強く感じてます」
最後に彼女が大切にしている言葉を尋ねると、こんなエピソードを明かしてくれた。
「『頑張ります』って言葉をあまり多用しないように気をつけていたんですが、ある作品で『頑張ります』が決めゼリフの女の子を演じたんです(笑)。でも、演じる内に『口に出すことで、みんなが幸せになる空間を作れることもあるんだな』と感じて、本当に頑張るときは『頑張ります』って言っていいんだと考えさせられました」。