痛み、苦しみ、憎しみ、自責…そういった感情を掘り起こしながら

中谷美紀 撮影/伊藤彰紀(aosora)

──お互いの役に対する感情と言えば、倉澤樹が娘の遺体を発見する第1話が衝撃的です。あのときの慟哭が、貴志ルオトに対する怒りの原点にも思えますし。

菊池 実は僕、あのシーンの映像を監督に見せていただいたんです。

中谷 ええ!? そうだったんですか?

菊池 はい。12年前の場面なので僕は演じていませんが、ルオトの記憶にあるはずなので。監督からは「見て、役として想像してください」と言われました。でも、本当にもう苦しくなっちゃって……。

しかも、ルオトとしては、それを喜びに変えなきゃいけない。その作業が大変だったんですが、見て演じるのと見ないまま想像で演じるのでは濃さが全然違ったと思うので、見ることができてよかったです。すごく鮮明に、ずっと覚えていましたし。

中谷 痛み、苦しみ、憎しみ、あるいは自責。そういった感情を掘り起こしながらのシーンでしたが、“叫び”と言えばムンクだなと思いまして。ムンクの展覧会を見に行ったりもしました。

ムンクは幼くして母親を亡くし、実の姉を亡くし……という複雑な人生を歩んだ人。そんな彼の絵画から、何かいただけるのではないかと思ったんです。「心をむき出しにしていないアートはアートではない」と言いますし。

そうして、ムンクの絵画から受け取った思いをお腹の奥の方にずっと大切にしまって。しかも、あのシーンを演じる直前に、(穂乃花役の)松岡夏輝ちゃんが「お母さんへ」と手紙を書いてきてくれたんです。

菊池 えええ~っ!!

中谷 中に折り紙が入っていて……。

菊池 そんな……(絶句)。

中谷 ルオトとしては複雑な気持ちになりますよね(笑)。なんと言いますか、そんな彼女が私を“お母さん”にしてくれたように思います。

──撮影後は、すぐに作品世界から抜け出せましたか?

菊池 どうだったかな……。でも……あっ、中谷さんからクッキーをいただいて。本当にすっごく美味しいクッキーで、ちょっとだけ食べてみようと思ったら止まらなくなっちゃいました。

中谷 あらら、ごめんなさい(笑)。

菊池 いやいや(笑)。おかげでリフレッシュできました。

中谷 それならよかった(笑)。私は今回、撮影中はずっとリフレッシュしちゃいけないと思っていて。いつもは仕事と日常を極力切り離すようにしているんですが、今回はなにもする気になれませんでした。

靴下を手で洗う気力もなく、「高いなあ……。でも、無理!」と思いながらクリーニングに出しましたね(笑)。そうじゃないと、張り詰めた倉澤の感情を演じられなかったんです。

もちろん、エンターテイメントなので小気味よく楽しめる作品になっていますが、演じる側としては、どんよりとした真っ黒いものを常に背負っていないとできなかった。なので、そこから脱するのにも苦労して。それくらい、私にとっては大きな経験でしたね。

スタイリスト/岡部美穂(中谷美紀) ヘアメイク/下田英里(中谷美紀)
衣装協力/ブラウス コル ピエロ(ウィム ガゼット 青山店)、イヤーカフ ヴァンドームブティック(ヴァンドームブティック 伊勢丹新宿店)、リング ヴァンドーム青山(ヴァンドーム青山本店)(全て中谷美紀)

作品情報

『連続ドラマW ギバーテイカー』
放送・配信:1月22日(日) 放送・配信スタート(全5話)
【放送】WOWOWプライム/WOWOW4K:毎週日曜午後10:00(第1話無料放送)
【配信】WOWOWオンデマンド:無料トライアル実施中

映画&海外ドラマライター。ファッション誌、映画誌などで作品紹介記事、インタビュー記事などを執筆。アメリカやイギリスのドラマを長らく愛してきたのに加え、最近は韓国ドラマの魅力にもハマリ中。