撮影/川野結李歌

犯罪者の更生を助ける保護司として、人生につまずいた者たちに寄り添う日々を送る阿川佳代。そんな彼女の駆け出し保護司時代を描いた連続ドラマに続き、映画『前科者』では阿川の前にある事件が立ちはだかる。

寡黙で誠実な“前科者”が関わるその事件は、やがて阿川の知られざる過去や“保護司になった理由”にも触れていくことに……。

『あゝ、荒野』など、国内外で高い評価を受ける岸善幸監督の下、有村架純が保護司の阿川佳代を熱演。「自信を持って送り出せる作品になりました」と胸を張る有村に、話を聞いた。

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想像することは大事

撮影/川野結李歌

──有村さん演じる阿川佳代は、多面的な魅力を持つ主人公ですね。

佳代の愛すべきところは未完成な部分にあると思います。もし彼女が熱血教師や正義のヒーローだったら、この物語は成立しなくて。

佳代自身にも癒えない傷があり、劣等感があり、だからこそ自分の存在意義を探し続けている。社会と上手く向き合えていないところが、保護司として人と寄り添うことにつながっているのかなと感じました。

──保護司である阿川を演じる上で大切にしていたことは?

現場に来てくださっていた保護司の方に伺った話では、やはり大事なのは保護観察対象者との距離感。介入し過ぎず、罪を犯した事情などは聞かない。とにかく見守ることに徹しているそうです。

でも、映画の中で描かれているように、食事に行くこともあるそうで。人間対人間なので相性もありますし、絆にもそれぞれ形があります。

だったら、「佳代の保護司としての形はどんなものだろう?」と考え、温度感や距離感を岸(善幸)監督と話し合いながら決めていきました。監督がよくおっしゃっていたのは、「ハートは熱く、頭は冷静に」ということですね。

©2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

──阿川が担当する工藤誠(森田剛)は、殺人を犯した男性です。

現実の世界でも罪を犯してしまった人もいますが、その人たちにも背景があり、そうならざるを得なかった事情があるかもしれない。その危うさや社会に対してのやるせなさを、工藤さんの物語から感じました。「罪を犯したから駄目!」と一概に言いきれるものではないというか。

もちろん罪を犯すことは許されませんが、それと同時に、表面だけで判断する危険性とも向き合わなくてはいけない。それって、犯罪者に限らず人に対して言えることですよね。

すごく明るくていい子がいたとして、でもその子にとっての“いい子”は何かをかばうための手段かもしれない。想像することは大事だなと思いました。

──それこそ阿川にも、実は抱えている過去がありますし。

人は誰しも何かしらの傷は負っていますが、ずっとそのことを考えながら生きているわけじゃない。忘れる瞬間もあると思うんです。工藤さんと向き合っているときの佳代は、きっと過去の傷を忘れているんじゃないかという気がしていて。

でも、ふとしたときに過去へと引き戻される感覚はお芝居をしながらもありましたし、それが佳代の大事な一部分でもあるのかなと感じながら演じていました。

©2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

──なぜ阿川はあそこまで工藤に対して献身的になれたんでしょう?

誰かを助けたいという思いで、佳代は保護司の仕事を始めたわけではないと思うんです。自分の存在意義をずっと探し続ける中、誰かを助けることでそれを見つけようとした。

きっと、純粋な気持ちではなかったと思うんですよね。鬱屈を抱えたまま、何かを欲しながら、乾いた気持ちに突き動かされてきた。でも、工藤さんに出会って初めて、何かを感じ、人のために動きたいと思うようになったんだと思います。