製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

ミュージカル『SPY×FAMILY』が3月8日、東京・帝国劇場にて開幕した。これに先立ち、同日昼に行われたゲネプロの様子をレポートする。

シリーズ累計発行部数2,900万部突破の人気コミック『SPY×FAMILY』。2022年4月にはテレビアニメ化され、2023年にはSeason 2と劇場版の制作が決定している。欧米圏、アジア圏でも人気の『SPY×FAMILY』が帝国劇場で、ミュージカルとして初舞台化、とあれば注目度はバツグン。公開ゲネプロからすでに客席の熱量も高い。

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唯一無二の家族が作り出すホームコメディ

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

各国で熾烈な情報戦が繰り広げられていた東西冷戦時代。隣り合う東国「オスタニア」と西国「ウェスタリス」では十数年にわたり仮初めの平和が保たれていた。

西国「ウェスタリス」の情報局対東課〈WISE〉(ワイズ)に所属するのが鈴木拡樹演じる凄腕スパイ、コードネーム〈黄昏〉(たそがれ)。そんな彼に命じられたのは東西平和を脅かす危険人物、東国「オスタニア」の国家統一党総裁ドノバン・デズモンドの動向を探ること。

しかし、彼は滅多にその姿を現すことがない。接触できるのは彼の息子が通う名門校「イーデン」の懇親会のみ。その懇親会に潜入するべく、〈黄昏〉は精神科医ロイド・フォージャーに扮し、家族を作るために妻と娘を探し始めるが……。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

戦闘機が飛ぶ音、響く爆撃音。そんな物々しい中から始まったオープニング。そして泣いている子どもを見つめ、手を伸ばそうとするものの、目を伏せる〈黄昏〉。まるで〈黄昏〉の過去を示唆しているような、ドキリとする始まり方だ。

が、場面は転換し、「100の顔を持つ」というスパイ・〈黄昏〉の仕事ぶりをポップに紹介していく。目まぐるしく変わっていくセット、華やかなダンスと歌で一気にその世界観を伝える。さらに生のオーケストラによる音楽が物語を盛り上げ、観る者の心を高揚させていく。

そして、やはり圧倒されるのは鈴木拡樹の存在感だ。姿を現した瞬間に、そこには〈黄昏〉がいた。彼が動くたび、セリフを放つたびに『SPY×FAMILY』の輪郭をしっかりと模られていく。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

アーニャ(増田梨沙)も、すごい。孤児院にいたアーニャは人の心を読む能力があり、〈黄昏〉の心を読んで頭の良い子どものふりをして気に入られ、見事に里子として引き取られることになる。

その一挙手一投足のキュートさが、あっという間に観ているものの心を掴んでいく。ロイドを「ちち!」と呼ぶ姿に思わず微笑む。小さな体で踊り、歌い、躍動する姿は舞台上に小さな花が咲いたかのようだ。

それでいて、幼いアーニャなりのこれまでの背景が垣間見られて切なさも感じさせられる。その一方で、「父親役」として翻弄される〈黄昏〉、いやロイドの表情も注目だ。アーニャに調子を乱されていくさまは微笑ましくもあり、切なさもある。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

そんなアーニャを共に育てることとなるのがヨル(唯月ふうか)だ。少し天然で、職場でも少し浮いているヨル。しかし、彼女の正体は暗殺者。任務のために娘と妻を必要とした〈黄昏〉、そんな〈黄昏〉と利害が一致したヨルだが、彼女の事情も決して明るいものではなかった。