映画が好きで、一昨年は映画に関する本を書く機会にも恵まれたが、じつは映画と同じくらい映画館が好きだ。もちろんシネコンプレックスなどではない。昔ながらの単一映画館である。
韓国では「映画館(ヨンファグァン)」という言葉も使うが、40代以上なら「劇場(グッジャン)」という言葉に親しみを感じる人が多い。
私は酒場には興味があるが、カフェにはそれほど興味はない。
しかし、ソウルの市場の中で30年も放置されていた劇場空間がスタバになったと聞いたら、行かないわけにはいない。
今回はソウルの北東部にある京東市場に誕生した「スターバックス京東1960店」を紹介しよう。
目印は京東市場4番ゲート
最近は韓国でも日本でも「市場とかムリ!」という若者が多くて驚く。
アジアを歩くのに市場を見ずに何を見るのだ。彼らは市場と市場メシを「不衛生」という言葉で一刀両断にし、おしゃれなカフェに入り浸る。
私と同年代の日本の人たちは韓国にアジアらしい荒々しさを求めてたびたび来韓していたのだが、最近の若い人は韓国におしゃれなものや西洋的洗練を求めているのだ。
世も末……、いや韓流以降、韓国を見る目が変わったのだろう。
だが、廃劇場がおしゃれなカフェになったと聞いたら、じっとしてはいられない。
先日、3年2カ月ぶりに韓国に来た私の事務所代表(重症の映画館好き)を連れて行ってみた。
京東市場は4番ゲートこそ派手になったが、中身は昔ながらの市場である。ところが、4番から入って右手に視線を移して驚いた。
赤地に白抜きで各商店の店名が表示された看板群に見慣れたグリーンのスタバ看板が紛れていたのだ。
看板の下から入って階段を上がると、シネコンのロビーのようなカラフルな空間が広がっている。さっきまで中高年だらけの市場にいたのに、ここには若者しかいない。
ん? やはりシネコンをカフェにしたのか? 混乱しながら観音開きのドアを開けると、そこは紛れもなく映画館だった。
スクリーンのあった場所にスタバの注文カウンターがあり、そこに至る通路の両脇は階段式になっている。思ったよりずっと大きな映画館だ。300席はあったのではないだろうか。
そもそも私は京東市場の中にこんな劇場があったこと自体知らなかったので本当に驚いた。
私は埼玉県川越市の観光名所「時の鐘」の近くで、日本の伝統家屋をスタバにした例は見ているが、映画館をスタバにするとはものすごいアイデアである。