彼方が匠海に見えたことは間違いじゃなかった
撮影/河井彩美
――北村さんが演じる彼方を想像できたとおっしゃいましたが、自分に当て書きされているかのようにも感じたともコメントされていましたよね。
僕らって人間を大雑把に分けたら、近いところにいる気がするんです。だから、当て書きと感じたのも、自分でもあり、彼でもあるというか、どちらにも該当する部分があるというか。たぶん、どこかのチャンネルが限りなく近いんだと思います。
普段、彼と僕は生き方も、見ているものも全然違うんですけど、1個だけ、ガチャってはまる、同じところを見ているチャンネルを持っている気がします。そのチャンネルを持っていることが、少なくともこの彼方という役には必要だったのかなと思いました。
あとから、匠海が脚本を書いていく中で、どんどん自分に近づいて行ったけど、自分はプレイヤーではなく、監督をやりたかったと言っているのを聞いて「なるほど」と。僕が、彼方が匠海に見えたことは間違いじゃなかったんだと納得しました。
©『世界征服やめた』製作委員会
――お2人の共通点は、この物語の中で描かれているようなことを実際に経験したという意味ではないですよね?
そうですね。彼の経験は彼のものでしかなく、僕がどこまで似た経験をしても、それは似て非なるものだと思っていて。具体的な経験というより、大きく言うと、1つのものの見方ですかね。僕らは近いものの見方とか、キャッチの仕方ができていて、それが今回の彼方役には必要だったんだと思います。
彼方は、自分からアクションを起こして巻き込んでいくというより、巻き込まれていく人だから、相手のリアクションを受ける側なんです。受けるって、僕にとって演じるうえでは発信以上に難しく、重要というのが経験の中であって。
しかも、僕自身これまで、どちらかというと、発信する側よりも、受ける側を求められる役のほうが多くて、匠海もそういう役のほうが多いと思うんです。そのキャッチの仕方に、プレイヤーとして近しいものは感じていて。
僕は今回、(藤堂)日向くん(星野役)のあのエネルギーをキャッチしなくちゃいけない役割で、それを逃してしまうようだったら、僕である意味がない気がして。それは、匠海から細かく言われていたわけではないんですけど、脚本の段階から課されたミッションだと感じていました。
撮影/河井彩美
――今回の脚本にはト書きにキャラクターの感情の部分も書かれていたとお聞きしました。
僕は、特別意識しすぎないようにしていました。自然とその感情になる部分は、素直にそのままやっていますけど、今回は、どちらかと言うと、脚本はありつつ、現場で求められる量が尋常ではなかったので。
普段の現場では、例えば、立ち位置とか、きっかけとか、そういう役の感情とは別のクリアな部分をどこまでも持って演じているんですけど、今回はそれが極限まで省かれていたんです。省かざるをえなかったとも言えるんですけど、目の前で起こることをキャッチするために、自分が持っているもののすべてをそこにフォーカスしないといけなかったんです。
「脚本に書いてあるからこうしなきゃ」になってしまうと、せっかく、芝居の鮮度を高めるためにテストをやらずにすぐに本番というやり方であったり、長回しをしてくれたりということが、もったいないなと。
極限まで初見に近い感覚を持てるように整えてくれているのに、そこで嘘をつくじゃないですけど、書いてあることをやってしまったら、意味がないものになってしまう気がして。ただ、正直に言うと、撮影をしている最中は、そんなことを考えている余裕もなかったと思います。
――そうすると、予想外のことも多かったのでしょうか。
クランクインをして、最初のシーンをテスト無しでいきなり15分の長回しで撮るなんて思ってなかったです。台本上のページにしたら1ページもないようなシーンが、あんなに長いとは思っていなかったし、現場に入って本当に3分ぐらいで本番が始まったんです。まさにぶっつけ本番です。
スタッフさんは事前に聞いていて、準備をしていますけど、演者側は誰もそんなことになるとは想像しないと思います。例えば、“とある場所”と書いてあって、“これって外国なのかな?”とか、“スカイツリーの上なのかな?”とかって、考えないじゃないですか。そういう次元です。ある程度、示されているものをもとにすると、そんなことになるとは考えられなかったです。





























