“本物”を目指すのが面白い

撮影/河井彩美

――北村さんはこれまで経験してきたことを、今回、“監督”という形で表現しましたが、萩原さんはやはり演じていくなかで表現してくということでしょうか。

そうですね。演じていく中でだと思います。結局、人を演じるので、役を通して経験したことや、見てきたものは、どんなにコントロールしようとしても出てくるものだと思いますし、そこは間違いなくあると思います。

他には……なんでしょう? まだわからないです。もしかしたら、先々に別の表現を欲する瞬間が来るのかもしれないし、このままなのかもしれないし。ただ、探すことはしていきたいと思いますし、何か、演じる以外のことが自分の中に現れたときは、それを拒まずにやってみたいなとは思います。

撮影/河井彩美

――北村さんは悩んでいた時に、「世界征服やめた」という曲に出会って救われたというお話をされていましたが、萩原さんにもそういう自分を変えるような創作物との出会いはありますか。

僕は人生とか、生活においてのインスピレーションを受けるものって、創作物よりもリアリティからなんです。わかりやすいことで言うと、スポーツとか。シナリオもなければ、その瞬間、瞬間での判断で生まれるものじゃないですか。100パーセントのリアリティの中に美しさを感じるんです。

だからこそ、本物の顔を見ているので、人を演じるうえではそれを目指したいと思います。それが僕の中での一つのテーマになっています。

ただ、演じているという時点で100パーセントの本物になることは無理で、本物になれることはない。けど、それを目指すというのが、僕の中では面白いんです。どこまで見せられるかっていうのは、表現者として楽しんでいる部分かもしれないです。

そもそも僕は挫折という挫折がこれまでなくて。楽観的な人間なんだと思います。だから、どん底まで落ちるということもないし、自分の心を救ってくれるような表現も求めたことがなかったのかも……。なので、今のところ、自分のインスピレーションを刺激するものは、ノンフィクションなものですね。

――面白いですね。ノンフィクションから得ている人が、フィクションを作っているって。

めちゃくちゃですよね(笑)。脚本という作り物から始まっている以上、100パーセントはないから、絶対に実現できないところを目指しているんです。

©『世界征服やめた』製作委員会

――でも、本作で言うと、目指すものに近いところはあったのではないでしょうか。

瞬間的にはあります。初めて見て反応しているときのリアクションには嘘はないので。特に、最初に撮った長回しのシーンは、本当に1回も何もしていないので、そういう意味では目指すところにちょっとは近づけたというか。生ものの瞬間が一番馴染んでいたのかもしれないです。

――あのシーンはリアルな萩原さんをのぞき見しているような感覚にもなったのですが、ご自身ではどんなふうに見えるのですか。

ホント、恥ずかしいです。匠海からの指示が、ただここで生活して、生きてということだけだったので、本当に自分がそこで生活しているだけで。それこそ、歯の磨き方とかも、「この人、こうやって磨くんだ」とかって思われるじゃないですか。

――まさに思っていました(笑)。

だから嫌というか、やっぱり恥ずかしいです。でも、そこでなんか演じちゃおうとかすると、それが今回はすごくもったいないと思ったんです。匠海も言葉にして伝えるとき、敢えて、「演じて」じゃなく、「生きて」って言ったと思うし。だから本当に、ありのままの僕が居ると思います。


インタビュー中に萩原さんが話されていた、クランクインでもあったという長回しのシーンは、物語の序盤に登場します。彼方が自室で歯を磨いたり、スマホを見たり、何気なく過ごす姿が映し出され、彼方というより萩原利久のプライベートをのぞき見しているような感覚にもなります。“本物”を目指す萩原さんの、限りなく“本物”に近い姿を、ぜひ、劇場のスクリーンでお楽しみください。

ヘアメイク/Emiy スタイリスト/Shinya Tokita
衣装クレジット/ジャケット ¥88,000 シャツ ¥45,100 パンツ ¥56,100 すべてインカミング[コンクリート]
その他、スタイリスト私物

作品紹介

映画『世界征服やめた。』
2025年2月7日(金)より全国公開