独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の国立スポーツ科学センター 福嶋一剛副主任研究員、中嶋耕平主任研究員、半谷美夏主任研究員、友利杏奈副主任研究員、笹代純平研究員、国立大学法人筑波大学体育系 中田由夫教授、つくばセントラル病院 小島佑基医師、大妻女子大学家政学部食物学科 清原康介教授、東京都健康長寿医療センター研究所自立促進と精神保健研究チーム 笹井浩行研究副部長、東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科 中山晴雄准教授、桐蔭横浜大学スポーツ科学部スポーツ健康科学科 大伴茉奈専任講師の研究グループは、災害共済給付データを用いて日本の中学・高校生の部活動におけるスポーツ関連脳振盪の発生状況を後方視的に分析しました。その結果、脳振盪は男子において、かつ、中学・高校ともに2 年生で多い傾向を示し、コンタクトスポーツで相対的に高い発生割合が認められました。競技別ではラグビーを筆頭に、柔道・空手など武道でも高い傾向が示されました。本知見は競技特性に応じた予防教育と安全対策の強化が重要であることを示唆します。
 部活動は中学・高校生にとって身近な活動ですが、ぶつかったり転んだりする中で「脳振盪」が起こることがあります。脳振盪は外見では分かりにくく、頭痛、めまい、吐き気、ぼんやり、集中しづらさ、眠りの乱れなどが出て、勉強や生活にも影響します。しかし日本では、どのような競技・場面で、また学年で起こりやすいのかを、全国規模で十分に整理した情報はありませんでした。
 そこで研究グループは、全国規模の保険記録を用い、中学・高校の部活動中に起きた脳振盪を性別、学年、競技、及び試合と練習の違いの区分けで年ごとに集計し、変化を調べました。その結果、脳振盪は男子で多い傾向があり、学年では中学・高校とも2年生に多い傾向がみられました。競技では体がぶつかることの多い競技(コンタクトスポーツ)で起こりやすく、ラグビーを
筆頭に柔道や空手などでも相対的に高いこと、また試合中だけでなく練習中にも起こることが少なくないことが分かりました。これらの知見は、競技特性に合わせた安全指導に加え、少しでも症状があればその日の活動を中止し、医療者の評価を受けた上で、症状に応じた復帰への仕組みづくりを構築することが重要であることを示しています。指導者や保護者は、試合だけでなく練習でも衝突や転倒が起こり得ることを前提に、危険なプレーの禁止、受け身や安全な接触の練習、見守り体制の整備を行うことが予防につながります。選手自身も「大丈夫」と思い込まず、頭を打った後は無理をせず周囲に伝えることが大切です。

* 本研究では、災害共済給付データと全国規模の保険登録データは同義として扱っております。

本研究は、独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター(JISS)において、スポーツ医・科学研究事業の一環として行ったものです。

【掲載論文】


【研究の背景】

 中学・高校の部活動は多くの生徒が参加する身近な活動ですが、その中で頭を強く打つことで「脳振盪」が起こることがあります。脳振盪は外から見えにくく、頭痛やめまい、吐き気、集中しづらさなどを起こし、勉強や生活にも影響するため、早期発見と予防が重要です。脳振盪は競技中の接触プレーや転倒、頭部への衝撃など、競技特性と関係して発生し得ることから、起こりやすい競技や場面を把握し、それに合った対策を行うことが求められます。しかし日本では、中学・高校の部活動における脳振盪について、性別や学年、競技種目、試合・練習の違いなどを全国規模で整理した情報が十分とはいえませんでした。そこで本研究では、全国規模の保険登録データを用いて、日本の中学・高校生の部活動における脳振盪の発生状況と特徴を明らかにすることを目的としました。

【研究内容と成果】

 本研究は、2012年から2022年の災害共済給付制度データを用いた後方視的観察研究です。全請求のうち、中学・高校の部活動中の外傷約260万件からスポーツ関連脳振盪(SRC)12,158件(うち部員数が把握できた24競技は11,660件)を抽出し、性別・学年・競技特性(コンタクト/非コンタクト)・試合/練習別・年次推移を整理しました。部員数が把握できた24競技について2012年から2022年のデータを合算すると、脳振盪の発生件数は、男子9,766件(84%;部員1,000人あたり0.54)、女子1,894件(16%;0.18)で、男子の発生割合が有意に高値でした。学年は中学・高校とも2年生が最多で5,093件(44%)を占め、1年生3,981件(34%)、3年生2,586件(22%)でした。競技特性別では、部員数は非コンタクトスポーツが67%と多い一方、SRCはコンタクトスポーツで8,705件(0.91/1,000)と、非コンタクトスポーツ2,955件(0.15/1,000)より約3倍多く発生していました。受傷場面は全体で試合5,696件(49%)、練習5,165件(44%)、不明799件(7%)で、コンタクトスポーツでは試合が55%(4,830件)と多い一方、非コンタクトスポーツでは練習が63%(1,872件)と多いことが示されました。競技別の発生割合(部員1,000人あたり)は、ラグビーが最も高く(2,167件;8.10)、次いで柔道(843件;1.95)、空手(143件;1.49)、サッカー(3,343件;1.03)、レスリング(18件;0.89)でした(参考図)。さらに年次推移では、発生割合は中学・高校とも上昇傾向を示し、2012年の中学0.21/1,000、高校0.44/1,000から、中学は2015-2017年に0.28/1,000、高校は2018年に0.82/1,000でピークを示しました。
 本研究の結果から、脳振盪は「特定の競技だけ」ではなく、性別・学年・競技特性(コンタクト/非コンタクト)によって起こりやすさや場面(試合/練習)が異なる可能性が示されました。また、ラグビーに加えて柔道・空手など武道でも相対的に高い発生が認められたことから、競技ごとの実態に即した予防教育と安全対策を重点化できる可能性が示されました。

【今後の展開】 

 本研究では、脳振盪の発生状況が競技特性によって異なり、コンタクトスポーツでは試合中に多い一方、非コンタクトスポーツでは練習中に多い傾向が示されました。今後は、競技ごとの実態に即して、試合・練習それぞれで重点的に対策すべき局面を明確化し、指導内容(安全な接触や受け身、危険場面の回避)や現場の運用(症状の早期申告、活動中止、段階的復帰の徹底)の効果を検証することが期待されます。また、柔道・空手などを含む高リスク競技に対しては、競技団体、学校、指導者、医療者が連携するとともに、地域クラブ活動への展開も見据えながら、試合時のみならず練習を含めた見守り体制や評価・復帰の仕組みを整備することで、学齢期における脳振盪の重症化や再受傷の予防につながる可能性があります。

【参考図】


図 24競技における部員1,000人あたりのスポーツ関連脳振盪発生割合

【著者の貢献】

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