「沈没家族」でたくさんの他人に育てられた僕、壮大な“人体実験”の結果は?
加納:加納土と申します。『沈没家族 劇場版』という映画が、ことしの4月から全国で公開されまして、一通り劇場での公開は終わったぐらいなんですけど。
この映画の内容が、シングルマザーだった母が、僕が生まれて1年経った頃に父親と別れて、僕と、僕の母のふたりだけの生活になったんですけど。
母は夜間の専門学校にも通っていたし、昼間は働かないといけないしっていうところで、それこそほんとに自分のことをする時間が全くないってことになって、東京の東中野でチラシをまいて「私の子どもを育てる人募集中」っていうのを書いた(笑)。
加納:チラシをまいて「共同保育人」っていうのを募集したんですけど、そのチラシを見て集まった人たちが、入れ替わり立ち替わり、僕と母が住んでるところに集まってきた。
その後、共同生活も一緒に始めたりして、みんなで「子どもを育てよう・みてみよう」という試みで、それを当時当人たちが「沈没家族」って名付けたんですけど。
その「沈没家族」で育った僕が15年ぐらい経って、いま僕25歳なんですけど、当時関わってくれていた大人たちとか、あとは母親とか、1歳の時に別れて離れて暮らしている父親とか、それぞれいろんな人に再会しにカメラを持って行って撮ったドキュメンタリー映画が『沈没家族』です。
全国で大反響!人の手を借りて“風通し”良く育つのも悪くない
加納:もともと大学の卒業制作で作り始めた作品なので、まさかこんな全国で公開させてもらえるとは思ってもなかったんですけど、半年ぐらい経って全国で公開して、ほんとにいろんな反響があって、この映画を世に出してよかったなぁと思ってます。
今:『沈没家族』は本編をぜひご覧いただきたいんですが、加納さんもいつか結婚したりとか、例えば結婚しなくても出産したりとかって時に、やっぱりお母さんのように、ほかのいろんな人の手を借りて、育ててみたいと思いますか。
加納:あ、それは思いますね。
率直に「沈没家族」っていう大人がたくさんいる環境で育ったっていうことが、自分にとって素直に楽しかったと思うし。
そうじゃなかったらたぶん、映画を撮って、いまになって分かったこともあったんですが、僕も母も大変だったろうなって。
もし自分にパートナーができて子どもができたりしたら、こういう風通しのいい感じで育てたいですね。
今:生まれる前から、親に友だちなり、共同保育人がいないと、産んでからだとこれやるの逆に大変だよね。
加納:そうかもしれないですね。
僕のケースはかなりレアな・・・「共同保育」という言葉はいますごく、いろんなところでやり始めている人もいるかもしれないけど、路上でビラをまくっていうのはなかなかない(笑)。
住所・氏名・生年月日、写真、好きな食べ物、バリバリ個人情報ですから(笑)。
今:僕、当時中野に住んでいたんで、噂を聞いて東中野に言ったら電柱に貼り紙が貼ってあったもん。
加納:迷い犬みたいな感じで(笑)。
今:加納さんがイベント前の「ハピママ*」のインタビューに答えて「母親は世界を信じていた」、つまり誰か全く分からない、知り合いでもない、友だちでもない人を、うちに呼んで、うちの息子を任せておいても、みんなで見ているんだったら大丈夫だろうって、世界を信用してくれていたんじゃないかって回答していて。
「誰に頼ろう?」っていう時に、全く知らない人に頼ろうとはなかなか、考えにくいじゃないですか、普通はね。
僕には「世界を信じる」ということが、すごく響いた感じがするんですね。