表現する側が担う役割と、これからの音楽シーンについて
── そこで音楽の果たす役割というのは今後変わっていきそうですか?
Gotch どうなんですかね。でもやっぱり、みんながありのままでいいんだっていうのは、ひとつあるというか。自分のフェスの現場で言えば、見えないルールっていうものが常にあるんですよ。
それは例えばみんなが「マナー」という形で言葉にして、自分だけではなく他人をも強制するような場合ですね。具体的に言えば、みんなで一緒に右手を振る、みたいなことです。
楽しいと感じる反面、どこか窮屈でもある。その感じっていうのは、社会を映している鏡だと思うんですよ。当然、音楽の現場で起こっていることは僕たちに責任があるんですけどね。
だから僕は、みんなが同じことをしなくても、それぞれの楽しみ方がそれぞれに成立して、結果何かひとつの反応になるんだったら気持ちのいいことだと思うから、そうなるようにしたいなって思っています。
これを「魂の解放運動」って呼んでるんですけど。僕自身もステージの上でよく変な踊りとかして、ダサいとか気持ち悪いとか言われるんですけど、知ったことかと(笑)。
僕の魂から出てきた僕の表現がそれなんだから、恥ずかしげもなくやるよ! と。もう、信じてやるってことです。それが価値観を変えていくことに繋がっていくと思うんです。ここ数年だと、ビリー・アイリッシュが出てきたことで何かが変わったじゃないですか。
── 『バッド・ガイ』のMVは衝撃でした。
Gotch うまくは言えないけど、ティーン・エイジャーたちの共有している感覚って塗り変わったと思うんですよ。その、“フィーリング”としか言い表せないものに触ることのできるのが音楽なんですよね。
だから表現する僕たちが担う役割って、普段の生活とか、生きるっていうことの中に、新しいイメージやエネルギーをどんどん作っていくことなんじゃないかと思います。
対馬 mabanuaなんかとよくGotchさんの話を勝手にしてるんですけど(笑)。チューニングをしている時に、Gotchさんは低音の部分にすごいこだわりを持っていてっていうのを聞いたことがあって、確かに音源を聴いてみてもそうだなと。
で、今お話に出たビリー・アイリッシュって、すごいんですよね、低音の出し方が。いびつなビートなんです。この、いびつなものって、日本人ってわりとすぐ排除する方向になっちゃうんですよ。
でもそこって、Gotchさんのおっしゃった“フィーリング”の部分だと思うんです。歌の前の部分っていうか。そこをキャッチできるかできないかっていうところは、すごく大事だなと思います。
僕は日本の教育として、「Aが正しい、Bは正しくない」じゃなくて、もっと感覚的にものをつかめるようになると、より面白い社会ができるような気がしているんですよね。もしかしたらそれは、以前にはあって、今は失われてしまったものかもしれない。
そこが歯痒いというか。やっぱり大切なのは、目で見えるものだけではないですからね。見えないものをいかにつかまえられるようになるか。音楽をやっている人間、音楽を売る人間が、そういう部分をもう少し広げていくのが大事なのかなと思っています。
── 教育というのは、対馬さんがこれからやっていきたいこととして、かなり重要な部分としてあるのでしょうか?
対馬 そうですね。やっぱり音楽の聴き方が一方からしか聴けなくなっちゃってるなぁって感じるんですよ。
もっといろんな角度から音楽を聴けるようになったほうがいいと思いますし、これは別に音楽だけが正しいと思ってるわけじゃないんですけど、ただ僕は音楽を売ってる人間なので、一番素晴らしいものだと信じてやまない人間としては、やっぱりこれをもっといろんな角度から理解してほしいなと思います。
どうしてもヒット曲も、似通ったものになっちゃいますし、正しいと思われてる音楽もやっぱりちょっと似通っちゃう。もっといろんなものが受け入れられるようになってくれるといいなという歯痒さがあるんですよね。
例えば、パーカッショニストだって、もっとスターになってもいいかもしれないですよね。ひとつの音楽だけが正しいわけではないっていうか。いろんなものが受け入れられる音楽シーンを作りたいなっていうのが、もともと思ってたことでしたね。
── Gotchさん、最後に、これからの音楽活動について具体的に考えていることなどありますか。
Gotch 今の対馬さんのお話に呼応するんだったら、ちゃんと「音楽シーン」を作りたいと思いますね。だって、芸能界しかないじゃないですか、極論すれば。テレビに出ないミュージシャンは売れてない、とか。
でも素晴らしいミュージシャンは、ライブハウスだったり、ホールだったり、フェスだったり、あるいはスタジオだったり、いろんなところで音楽をやっているわけで、
そういう素晴らしいミュージシャンが素晴らしいと認められるような、音楽の土台みたいなものをちゃんと作んなきゃいけないなって思います。
かたやアメリカの音楽シーンを見てみれば、いろんなコラボがあったり、有名シンガーの後ろでジャズドラマーが叩いていたりだとか、そういうことが普通なわけじゃないですか。
だからもっともっと裾野を広げて行かなきゃいけないし、そうすることによって音楽を始める人も増えるだろうし。
僕とか対馬さんが爺さんになって、死んでいくまでに、ちゃんと根っこの生えた音楽シーンとやらを作りたいというか、ちゃんと文化として根付かせたいという気持ちが強くあります。
僕が作ってる「APPLE VINEGAR」(※編集部註:Gotchが個人で作っている新人を対象にした音楽賞)とかもそういう思いがあって。
ある種の同時代性を持って、それぞれの場所を豊かにすることで、最終的に「あの人たちって日本の音楽の根っこみたいなのを作ったよね」って言われて死んでいきたいですよね。
■各回更新!
いち早く動いたふたりが、それぞれのやり方を貫いて交差した“音楽への思い”を語る、アジカン後藤正文×対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)スペシャル対談(前編)
音楽関係者に向けたドネーション(寄付)「White Teeth Donation」について語る、アジカン後藤正文×対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)スペシャル対談(中編)
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そのほかリリース情報はGotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)公式サイトGotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)公式サイトをご覧ください。
対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)が立ち上げた「White Teeth Donation」の詳細はorigami PRODUCTIONSや、noteをご覧ください。