男女を隔てる“性的”な視線って?おっぱい写真家が語る“エロス”

今:伴田さん、いらっしゃいませ!

いま津田さんと「公共の場での授乳」について、人前でおっぱいを見せていいのか、あるいは隠せばいいのか、そんな話をしていたんですけれども、おっぱいはやっぱり、僕らにとって魅力的だから見ちゃうワケですよね。

伴田さんは500人の女性のおっぱいを撮影して、夢は「おっぱいミュージアム」をつくることと聞いていますけれども、おっぱいの魅力については伴田さん、誰よりもお詳しいですよね!

伴田良輔さん(以下、伴田):あのね(笑)最初にお断りしておくと・・・チラシにも“巨匠”って書いてありますけどね、実は撮り始めたのが1993年くらいで、だからかれこれ25年くらい撮っていて、どれくらいの方を撮らせていただいたかなぁと数えてみたら500人になっていた、というだけの結果なんですけどね。

今:芸能人ではなくて、いわゆる素人さんですよね?

伴田:はい、芸能人やモデルも撮りますが、僕の被写体は一般の方が多いので。

今日は、撮り始めた頃の作品も持ってきたんですけど、一番最初に撮ったのはポラロイドで。おっぱいの写真を、現像に出していいのかどうかっていうことさえも、僕の中で試行錯誤で始まりました。

で、なんでおっぱいを撮りたいと思ったかというと、もちろんおっぱいはね、思春期の頃から憧れで、誰しも見たいなって気持ちはあったと思うし、僕もそうだったけれども。

ただ僕はメディアで30代の頃から写真評論や美術評論、つまり人の作品について書くという仕事をしていたんですけど、エロティックなものについてもたくさん書きました。

そんななかで、自分は何に“エロス”を感じるのか、そこを自身に問い詰めないと評論ってできないんじゃないかと考えるに至って。

僕はじゃあ、どういう写真が撮りたいのかなって思ったら、女性が鏡を持った写真がパッと頭に浮かんだんです。それで鏡屋さんで30㎝の丸い鏡を切ってもらって、手に持ってもらって撮ってみた。

一見すると不思議な写真だと思うんですけど。横から見たおっぱいと、鏡に映った正面を同時にひとつの画面で撮る、撮りたいなぁと思って、ずっと撮り続けています。

グラビアへの不満 “ウッフン”や“寄せ”に「全然グッと来ない」理由とは?

伴田:いわゆるグラビア写真って、ウッフンとかね、寄せたりとかね、そういう写真が多いと思うんですけど。

ああいうおっぱい写真に僕、全然、グッと来ないっていうか。なんでこんなことするんだろうなって気持ちがあって、不満だった。

おっぱいは、ほんとに自然に撮ったらいい。自然光で、やわらかく。

津田:鏡の位置とかは、結構自由なんですか。

伴田:当初は僕もやっぱり、おっぱいを撮らせていただく、大切なものを撮らせていただくという緊張感があって、いっつも同じようなアングルから、定点観測みたいな形で撮っていました。

そうしたら、いろんな方の、いろんな“個性”がおっぱいにはあるんだ、というのに気が付いて。

おっぱいが、もうひとつの“顔”みたいな感じがしてね。

そういった経緯もあって、この頃は割と自由に、鏡の角度も動かして撮れるようになってきました。

自然なおっぱい、ということでいえば、僕がいつも最初に、まず鏡も外した状態で撮らせてもらう一番基本的なポーズがあるんですけど、横から見ている視線で、何の力も入れずにリラックスしていただいて、向こうに二の腕が自然に見えるアングル。

僕はこのポーズが好きで、皆さんこの角度でも撮らせていただいています。

性別を超え人を魅了する“おっぱい美”!谷川俊太郎さんとも“おっぱい”詩集をつくることに

伴田:それで撮り始めて6年目くらいに『BREAST』という写真集を出したんですけど、出版社の方によると4割くらいは女性の方が買ってくださったそうで。これは僕にも驚きでした。

講談社の『FRaU』という女性誌が「女性の身体の美しさ」みたいな特集をした時に、僕の作品を載せてくれたこともありました。モデルが見つかるかどうか、僕はほんとまったく分からなかったんですけど、一般の方から40人応募があって。それで皆さん撮らせていただいて、ずーっとそれから続いていて。

僕は「おっぱいの輪」って言っているんですけど。

津田・今:「おっぱいの輪」(笑)

伴田:ひとりの方が撮って、気に入っていただければ、その方のお友だちとか紹介、紹介でご縁がつながってゆくんです。だから「おっぱいの輪」(笑)

それで撮り始めて10年目ぐらいですか、谷川俊太郎さんに僕の写真を見ていただく機会に恵まれて。

そうしたら3カ月後くらいにいきなり、ひらがなの3行詩が30篇、届いたんですよ。

僕は僕でおっぱいについていろいろ考えることはあったんですけど、谷川さんの30篇を見て、子どもの目で見たりね、大人の男の“エロス”の目で見たり、お母さんの目で見たり、本当に、さすがに、すごいいろんなアングルから詩にしていただいてね。

スライド画像:『mamma まんま』(特装版)

伴田:その中でも「やさしさのかたち」っていう言葉に、僕は衝撃を受けました。

あの、こんなこと言ったら谷川さんに失礼なんですけど、最初に見た時に「え?こんなの当たり前のことじゃん」って思ったんです。でも、こういう風に当たり前のことを当たり前に言えるってすごいなって思って。

というのは、僕はさっきも言ったようにグラビアとかそういう写真に不満があって、それはおっぱいを“リンゴ”とかね、“レモン”とかね、何かにこう、比喩をするじゃないですか。何か別のモノに、言葉で置き換えることって意味がないと思ったんですよね。

おっぱいはおっぱい、見たままを、僕は撮りたい。

あの言葉に置き換える、比喩って意味ないなーと思っていたんだけど。

「やさしさにかたちがある」というのも、ひとつの比喩なんですけど、なんか別のモノに置き換えていないよね。

おっぱいを「やさしさ」そのものだっておっしゃっている。そうかもしれないな、と。なんかドキッとさせられました。

人類みな哺乳類!男が“憧れ”や“エロス”から解き放たれることはできるのか

伴田:それで、谷川さんと一緒に出させてもらった写真詩集『mamma まんま』のあとがきでも書かせてもらったんですけど。

伴田:人間って、つまるところ“哺乳類”じゃないか。ホモサピエンスとか、動物界の頂点にいるとか偉そうなこと言っているけど、そうじゃなくて、生まれてきて、おっぱいを吸っているっていうのは“哺乳類”そのままでね、その“哺乳類”であるっていうところにおいては、僕らが“エロス”、つまりおっぱいは男の見るものだみたいに言っていること自体がおかしくてね、おっぱいを吸ったのは皆さん、女性も男性もお母さんのおっぱいを吸ったわけで。

“哺乳類”であるということにおいては、男女差は関係ないんじゃないかって思ってね。

僕の中にある“セクシャル”なイメージがたまたま、赤ん坊の視線に近いのかもしれないけれども。

というのも僕の写真は30cmくらいの距離で撮るんですが、距離感も含めて、そうなのかもしれません。それに気が付いたのは、最近も最近なんですけど。

スライド画像:『mamma まんま』(特装版)

伴田:もうひとつ不思議ともいえることがあって、僕は写真を撮る時、女性に「ちょっと手を添えてもらえますか」っていう風にリクエストをするんですけど、そうするともう、間髪入れずやってくれる。

その自然に取っていただくポーズっていうのが、授乳をされた方でもそうでなくても、パッと皆さん、おっぱいを赤ちゃんに与えるのに捧げ持つような、同じポーズになるんですよ。

津田:伴田さんの写真集が女性に4割売れたっていうのは、すごい象徴的ですよね。

また、谷川さんの詩が付くことで、我々はおっぱいの写真といえば、男性にとっては当然“性的”なものという文脈でしか見られないんだけれども、ああいう違った角度から見ることで、もともとおっぱいって、そっか、次の世代をつくってゆく、子どもを産むことと育てるということにつながっている、実は社会にとってすごく重要なものなんだなって。

だけどなんでこんなに、意味っていうのがひとつに限定されているんだろうという、そのことについて、すごく考えさせられる写真だなぁと思いますね。

今:普段、男の中でおっぱいといったら、やっぱりエロ文脈が先に来て、次に伴田さんのような美学的な価値観やアプローチがあって・・・という風に、いろいろ語れるまなざしとか視点がいっぱいあるはずなんだけど、どうも性的なあたりに収斂されてしまうのが、心もとないですよね。

こんなに美しい写真があるならば、みんなで鑑賞してもいいのにね。

伴田:おっぱいをどう捉えるのかということについてはね、僕も撮り始めて10年目ぐらいに『鏡の国のおっぱい』という写真集を出していますが、これもなぜ僕が鏡を使って撮っているのか、自己分析しながら作りました。

結論が先にあって撮っているわけではないんですね。

伴田:僕自身、撮りながらおっぱいについて考えているという感じなんですよ。

これだけおっぱいへの憧れが強いのはなんでだろう、とかね。

それはたぶん“エロス”に囚われているんだけど、でも、そうでない見方も僕の中にあって・・・

そこに一線は引けないんですよね。スパッとは、分からないんです。

――500人のおっぱいを撮っても「おっぱいをどう捉えるのか」については考え続けている・・・男3人、おっぱいへのまなざしについて熱く語り合う店内に改めて「チリリン♪」とカウベルが響き、産婦人科専門医の村上麻里先生がいらっしゃいました。

 

産婦人科医きっての“おっぱいマニア”による、おっぱいアレコレ大解剖!

今:村上さんじゃないですか!さっきから男たちばかりで、何も知らないクセにおっぱいについて話しているワケですけれども、村上さんはお医者様なんで、いろいろ教えていただければ。

村上麻里先生(以下、村上):私はたしかに産婦人科医ではあるんですけれども、ナゼか「おっぱいマニア」にもなってしまいまして(笑)

今日はおっぱいについて、専門医として、またマニアとしてお話させていただきますね。

まず日本の民族衣装、和服での授乳風景をご覧いただきましょうか。

画像提供:母乳110番

村上:先ほど赤ちゃんの頭がシャツの中にムギューッと入って苦しそうな写真がありましたけれども、和服だと「身八つ口」(みやつくち)という脇に開いた切れ目から授乳もできちゃう。授乳服としてデザインされた専用の授乳口ではないですけれども、このほうが結構、スマートだったりしますよね。

でも江戸時代の歌麿さんの浮世絵などを見ると、丸出しなんですよ(笑)。その方が早いですからね。当時は公共の場で、おっぱいを出して授乳をするのが当たり前でした。

歌麿さんの絵、赤ちゃんのポーズが、授乳経験のあるお母さんだったらすごく“あるある”だと思います。ちょっとよそ見しながらとか、おっぱいを飲みながら暴れて足をピーッと上げて、それをお母さんがハイハイって手でつかんでいるというような。

私の体験でもありますし、授乳していた方もたぶん、非常に懐かしい感じがするんじゃないかなぁと思います。こういった光景というのは、変わらないものなんですねぇ。

続いて、時間をグーッと遡ってみましょうか。

イラスト:ちかぞう

村上:「カモノハシ」ってご存知でしょうか。そもそも私たちは哺乳類なんですけど、カモノハシは一番原始的な哺乳類ともいえる動物です。カモノハシは、授乳はする、つまり乳汁はあげるんですけど、実はおっぱいはありません。

今:授乳するのに、おっぱいがない!?

村上:乳房には乳腺があって、この乳腺のルーツをたどると汗腺、いわゆるアポクリン腺になるんですが、カモノハシの赤ちゃんはこのアポクリン腺から出る栄養の入った分泌物を舐めて育ちます。これが原始で一番古い、哺乳類の形です。

それでその後、どんどん進化してゆくと、最終的に大きく乳腺が発達して、乳首があって、そこから乳汁を飲み取るというシステムになってゆくのです。

ヒトのおっぱい徹底解説!どうしてすぐ泣く?授乳を“苦行”から“癒し”にするには?

村上:そして哺乳類にもいろんなタイプがいるのですが、私たちヒトのおっぱいは乳房に乳汁を溜めて飲ますのではなく、乳腺のいわば工場があって、吸われたら出るという仕組みになっています。

牛乳のパッケージに描かれた牛のようにミルクタンクがあって絞って飲む、そういう溜めて飲ませる仕組みではないんです。

今:ということは、吸わないと出てこない?

村上:そうなんです、吸わないと出てこないんです。“受注生産制”って、私はよく言うんですけれども。

これは、ホルモンの働きがそうなっているから。

吸われるとその刺激が脳に伝わって、脳から最近では“愛情ホルモン”なんて言い方もされている「オキシトシン」が分泌されます。併せて「プロラクチン」というホルモンが乳腺に働きかけて乳汁を作ります。

「オキシトシン」は周りの筋肉を収縮させて、つくった乳汁を流し出します。この2つのホルモンが働いて、おっぱいは吸われると産直で乳汁が作られて、押し出されるのです。

特に「プロラクチン」は、夜間の方が分泌がいい。赤ちゃんが寝ながらおっぱいを欲しがるのは、このような仕組みから考えると当たり前のことで、そうやって授乳が維持されてゆきます。そして吸わせている限り、ずっと出るものなのです。

おっぱいを飲む赤ちゃんの側の話もしましょうね。生後1日目の赤ちゃんの胃の大きさって「サクランボ」サイズなんですよ。3日経って「クルミ」くらい。1カ月になってようやく「鶏卵」大の胃袋になります。

母乳の分泌量も、やっぱり最初のうちは少ない。赤ちゃんの胃袋も小さいから、それに見合った量なのです。

今:それしか出ない?

村上:出ないけれど、胃袋自体が小さいですから、それで問題ないってことです。

ただ、小さいから腹持ちが悪いので、いつどこで泣き出すか分かりません。すぐお腹が空いちゃう。そうすると、すぐあげなきゃならない。1カ月の赤ちゃんで、ほぼ母乳だけで育っている子の場合ですと、1日に12~18回飲むのも当たり前です。

そして赤ちゃんが吸うと作られて出る、吸うと作られて出る、飲んだ分だけ湧いて出る、という形でおっぱいは生成されています。

例えば1時間に1回、授乳するという人もいると思います。大変じゃないの?と言われるかもしれませんけれども、さっきは痛い思いをしているなんていうかわいそうな例もありましたが、おっぱいを出す「プロラクチン」とか「オキシトシン」って、気持ちを和らげる、宥める作用があるので、痛くなく、上手くあげられていたら、授乳を何回していてもリラックスできて、育児の中の休憩時間になったりするんです。

それはたぶん、うまくいっていない授乳のことしか知らないと、感じ取れないことかもしれませんね。

もうひとつ、興味深いデータがあります。

飲み始めのおっぱいから何分か置きに、試験管に乳汁を絞って並べてゆくと、脂肪分の量が変化してゆくのです。おっぱいって、お母さんの食べたもので味も匂いも毎日変わりますし、1回の授乳でも刻一刻と成分が変わる。ものすごく、ライブな飲み物なんですね。

チューチューしていると、脂肪分がどんどん増えてゆく。そうすると味も変わるので、脂肪の多いおっぱいにたどり着くと、赤ちゃんも「あぁお腹いっぱい、ごちそうさま」と。

「味が変わったので、もうおしまいですね」と、そういうデフォルト(初期設定)になっています。

なので、時間を決めてあげたり「じゃあこれでおしまいね」なんて切り上げてしまうと、「ごちそうさま」の段階までたどり着けていなくて「え?なんか足りないんですけど?」となって、また泣いて欲しがったりします。

津田:赤ちゃんは、味の変化で分かるんだ・・・

村上:それに従えば、必要な量だけ作られるという仕組みがうまく回るんですね。こちらが時間で調整したり、回数で調整したりっていうのが一番よろしくない。お母さんの身体の働きを、邪魔しちゃいけないんですね。

哺乳類ですから、お母さんと赤ちゃんのあるがままに、そーっとしておいてあげれば・・・上手くあげれば痛くないし、リラックスできるし、回数をあげてもそんなに負担にならないように、本当にうまくできている。

本来そういうものなんですけど、でも私も実際に自分が体験するまで全然、こういうちゃんとした仕組みを知りませんでした。大学の医学部でも習いませんし、医者は病気を治すのが仕事なので、おっぱいは病気ではなくて普通のことですから、みんなあんまり興味がないんです。

今:先ほどから村上さんがおっしゃっている「おっぱいを“上手く”あげる」というのは?

村上:お母さんが痛くない、近く深くくわえている吸い方という風に私は認識しています。

血豆ができるとか、張って痛くなっちゃったとかっていう例が出ましたけれども、ちゃんと正しい、いい授乳をお母さんと赤ちゃんがマスターすることができれば、そんなことは1回も起きずに済むんですよね。

今:でもそれには、どうしたらいいんですかね。ママが悪いワケではないですよね。

村上:どうしたら・・・それを産婦人科医や病院、助産師さんがちゃんと教えないといけない、というところです。

ただ、いい授乳を知っているというのと、それをうまく伝えるというのはまた別モノで、「こうしてこうしてこうなさい!」って赤ちゃんの頭をグッとおっぱいに押し付けて「こうよッ!」というのも・・・できあがりは、まぁ同じ形になるかもしれませんけれども、それはなんかちょっと違いますよね、だって哺乳類なワケですからね。

津田:哺乳類として、生物として時間とか回数の管理は良くないと知っていても結局、お母さんの方が現実の生活でやらなきゃいけないこととかがあったら、そうも言っていられない時もあるかもしれませんよね・・・それはそれでお母さんにも赤ちゃんにもお互い、よくないことになったりするんですか。

村上:ストレスになりますよね。

津田:だからこそ、ここでもパートナーのサポートがすごく重要になってきますね。

村上:ちょっとお手伝いがあると、赤ちゃんを見ていてね、それが終わったらあげられるよね、とかもできますからね。ストレスも、おっぱいのホルモンには悪い影響があるので、できるだけストレスなく過ごしてほしいな、と思いますね。

 

“おっぱい愛”あふれる!スペシャリスト3名+司会者によるフリートーク

村上:今日はオマケに、17年前の我が家の写真をお持ちしました。私には3人、娘がいまして。この時3女、絶賛授乳中です。

今:授乳中?分かりませんね。

村上:これは『AERA』で出させてもらった写真なんですけど、授乳服をうまいこと使うとこんな感じです。当時「うわぁこんな写真出ちゃったよ」と私もビックリしたんですが(笑)でもこれだとそんなに、いやらしい感じはしないでしょ?

わざわざ隠すよりも、わざわざよそに行くよりも、服の中に赤ちゃんを突っ込むよりも、なんかもうちょっといいやり方がないかなっていうのは、いつも考えています。

伴田:僕は昭和30年代の、京都の山の中で育ったんですけど。母親は朝から田んぼや畑に行くわけですよ、それで普通に、何かで隠すこともなく授乳していましたね。それから状況は変わってきましたけど。

だから僕は幼い時、外で授乳されている光景、田んぼに赤ちゃんを連れて行って授乳っていうのは、結構見ているはずです。子どもを家に置いてはおけないので、それがもう普通のことで。

僕については暴れる子だった、っていうかね、挙動不審な子だったんで(笑)家に閉じ込められていたんですけど。

でもそういう環境にあれば、いきなり見ても、そんなに驚くことではないと思うんですよね。やっぱりいま、見る環境が少ないですよね。

村上:見ないですね。

伴田:だから急に見ると驚くっていうのは僕も理解できるし、そこにいろいろ軋轢も生じているんじゃないかと思うんですけどね。

村上:私も自分が産むまで、本当に母乳について何も知らなくて、同性だからって目の前でおっぱいを出されても恥ずかしくて。当初は授乳室も、産婦人科医ですけど恥ずかしくて入れなかったですよ。

今:お医者さんでも!?

村上:入りにくかったです、最初はとても無理でした。あそこは入っちゃいけない場所、見ちゃいけないって、ほんと恥ずかしくて。いまでこそ平気でおっぱい、おっぱい見ますけどね(笑)

今:初めてだと、分かんないこといっぱいありますからね。

赤ちゃんにとって“おっぱい”は胸だけじゃない?パパでもいい?おしゃぶりは?

今:ところで村上さんが監修された本か何かに「赤ちゃんにとって、おっぱいは胸だけじゃない」というようなフレーズがあったと思うんですけど、これはどういう意味なんでしょうか。

村上:『おっぱいとだっこ』の中のお話ですね。

おっぱいというのはもちろん栄養ではあるんだけれども、お母さんの温かさだったり、匂いだったり、抱き締めてもらう感覚だったり。そういったもの全て含めて、お母さんであり、おっぱいなんだ、ということです。

おっぱいは、子どもが安心できる基地のような場所。そこに戻って安心できれば、また離れてゆけるよね、いつも安心と不安を繰り返しながら、だんだん離れてゆけるようにするためには、やっぱり心の底から安心できる場所として、おっぱいはあって欲しいな、という思いがあります。

今:例えば安心できるおっぱいであれば、直接のママじゃなくてもいい?

村上:うーん、まぁ、そうなるのかなぁ。昔だとほら、乳母とかもありましたけど、でもそうすると家光と春日局みたいに、親子関係がうまくいかない将軍家のゴタゴタ、みたいになったりするのかもしれないですけれども。

でも赤ちゃんにとっては、誰か抱き締めてくれる人、それは乳母でも、お父さんの抱っこでもいいんでしょうね。「大丈夫だよー」ってしてもらえる、それも安心な基地ですよね。

伴田:あの・・・男が、おっぱいをあげてもいいんですかね。

村上:お父さんたちは、みんなトライするみたいですよ(笑)

伴田:知り合いのお父さんがいま、おっぱいをあげたくてしょうがないって言ってますけど、あげられないって嘆いているんです。

村上:お風呂に入った時なんかに「おぉおお、俺の、の、飲んでみる?」ってやっているお父さんは多いみたいです。

今:“あるある”なんだ(笑)

村上:“あるある”ですね(笑)

あと夜中に、子どもが寝ぼけてお父さんのおっぱいを探しにいっちゃったり。お母さんが「そっちはパパだよー、ママはこっちだよー」っていう時もあるみたいですけどね。

伴田:あと、僕は小さい時、ゴムの乳首を首からぶら下げてて、そういう子どもが結構いたんですよ。

村上:おしゃぶりですね。

伴田:あれは何か、危険性とかあるんですか。

村上:おしゃぶりは、絶対必要なもの、ではないですよね。たしかに赤ちゃんは、チューチュー吸うのは好きですから。

伴田:吸っていれば泣き止む子がいて、僕もそうだったんですけど。

村上:物を口に入れてれば泣かないですからね、口ふさぎっていうか。ですけれども、ずーっと長く使っていると、歯並びの問題が出てきますね。前歯が出たりとか。

あとは大きくなって「さぁ止めよう」という時に、意外とおしゃぶりをやめさせるのって大変だったりするんですよ。

津田:そうなんだ!

伴田:独特のゴムのにおいとかして、そっちにいっちゃう人もいる(笑)

村上:スヌーピーに出てくるライナスの毛布みたいに、どうしても離せないっていう、そういうものになってしまう可能性はあります。なので、うまく使う分にはいいんですけれども、使う場合にはそのあたりを分かったうえで、が望ましいですね。

問題は「男VS女」より「女VS女」の方がより複雑?女の敵は女なの?

今:人の授乳を人前で見るのはね、女性でもなんとなく気持ち悪いとか、なんとなく憚られるとか、なんとなくばつが悪いとか・・・いわば「なんとなくイヤだ」っていう人と、あと自分は結婚もしないし、出産もしないし、子育てもしないっていう風に決めている人にとっては、自分を否定されたような、見るのが辛いとか。

女性自身も「公共の場での授乳」を肯定しているとか、容認しているとは限らないんですよね。

村上:女の人の方が、むしろ厳しいかもしれないですよね。

今:男はほとんどが、エロ目線でごめんなさいっていうばつの悪さだと思うんですけど。

村上:女の人の方がより複雑で、今までの自分の背景が気持ちとして出てくることはあると思います。

例えば不妊の方だと「母性をひけらかして」「私は欠陥品ってこと?」というように感じてしまう人もいるかもしれません。

ただ、そうやっていろんな人がいるから、そこでどう折り合ってゆくか、ということなのではないでしょうか。

この会場も「公共の場」ですが、今日はお子さん連れでいらっしゃっている方もいますから、たぶん授乳中のお母さんなども、たくさんいるのではないでしょうか。

――ここで突然、場内が明るくなったかと思うと、客席から何名ものママが立ち上がり、ステージの方へ歩いてゆくではありませんか。

私の座っていた場所のすぐそばからも数名、全部で7~8名はいるでしょうか、どのママも赤ちゃんを抱っこしながらにこやかに、舞台上に用意された椅子に腰かけます。

何事が起きたのかザワザワと成り行きを見守っていると、村上先生が高らかに宣言しました。

村上:これがウワサの、「授乳ショー」(協力:モーハウス)でございます!

 

「授乳ショー」にビックリ!こんなにたくさんのママが客席で授乳していたなんて!?

――なんと!トークショーの最中もモデルママたちは客席で授乳をしていた模様。あちこちから「えーっ全然気づかなった」と驚きの声があがります。

そんな歓声を一身に浴びて、ステージには計7組のママ&赤ちゃんが並びました。

たとえ至近距離でも、おっぱいはもちろんお腹も見えない、肌の露出がない「授乳服」を着用した授乳スタイルをリアルに紹介する「授乳ショー」がスタートしました。

授乳ママモデル直撃インタビュー!授乳服での“おっぱい”ってどんな感じ?

村上:では、モデルさんたちに話を聞いてみましょう。

私たちがお話をさせていただいた間も静かだったと思うんですけど、それは、授乳をしていたということ?

Aさん:私は、いまステージ上でしているところです。子どもは11カ月なんですけど、落ち着いたカフェに行ったりした時にも、さっと授乳できるのでのんびり過ごせます。

津田:寝ているようにしか見えないですね。

Bさん:うちは3カ月なんですけど、さっき客席でたくさん飲んだので、いまは要らないみたいな顔してます。お散歩の時にも、授乳しながら歩いたりしています。

村上:おっぱいのおかげで、津田さんや伴田さんのお話もよく聞けたのではないでしょうか。お散歩授乳も、気分転換になっていいですね。

Cさん:この子は9カ月になるんですが、上に6歳のお姉ちゃんがいるんですけど、どうしても参観日だったり習い事の付き添いだったり、静かにしなきゃいけない場面に連れてゆくことも多くて。

そんな時でも周りの誰にも悟られずにおっぱいをあげられて、静かにしてくれるのでとても助かってます。

あと以前、子連れ出勤をしていたこともあって、オフィスでもあげていました。

Dさん:うちはいま7カ月なんですが、生後1カ月ちょっとで外出した時に授乳室がなかなか見つからなくて、すごく困ったんですよね。この子が飲みたいタイミングと、あげられるタイミングというのに差が出てしまって。

授乳室を探している時間がない、1分1秒でも早く泣き止ませたい、おっぱいをあげたいのにって。授乳服なら駅のホームや電車の中でもあげられて、あげればすぐ収まるので重宝しています。

村上:子連れで出かける時には、荷物も心配なんですけど、泣いたらどうしようっていうのは一番大きな悩みですよね。泣かせる前にパッとあげられるというのは、いいですよね。

Eさん:我が家は4カ月になりますが、さっきまでちょっとぐずっていたんですけど、おっぱいをあげたらぐっすり寝ちゃいました。

ここへ来る電車の中でも、あげたらぐっすり。会場に到着して、ぐずぐず言い始めたからあげたら、またぐっすり(笑)。私は本が好きなので、本屋さんや図書館でもあげてます。

村上:あげたらぐっすりですよ、皆さん。おっぱいってすごいですよね。泣かずに静かにしていてくれると、助かりますね。

Fさん:この子は7カ月で、トークショーの間、ずっと飲んでいたのでゴキゲンです。

我が家は家族で野球観戦に行くんですけど、球場にも授乳室はあるんですが結構混んでいて、番号札をもらって待たなきゃならないんです。歓声が聞こえても「あぁヒットかなぁ、ホームランかなぁ」とやきもきしながら順番待ちをしなくちゃならないらしくて。

でも私は野球を観ながら、授乳服で授乳をしながら応援できているので、すごい幸せというか、ちょっとうれしいです(笑)。

あとは、スーパーで買い物中にカートを押しながら授乳したこともあります。

村上:家族で一緒に盛り上がりながら、授乳中(笑)。買い物授乳も、いいですねー。

Gさん:私は、できるだけ授乳室を探して出かけるようにしているんですが、都内だとデパートとかすごく混んでいて、行列ができたりしていて、でも赤ちゃんは泣きわめいて、どうしよう、どうしようって、そんなこともあります。授乳服なら、例えばファミレスでもバレずにあげられます。

村上:授乳室があればいいのかといえば、そういうものでもないんですね。

番号札はちょっとないんじゃないかな、と思いますが、でも一番泣いている人から先にっていうのも変ですしね。

おっぱいさえ飲めていれば、赤ちゃんって意外に静か、なんですよね。

マジカル☆授乳ショーには男性ゲストも興味津々!産後ママを大事にするきっかけにも?

津田:僕は1回、自分の番組でこの問題を取り上げた時に映像を見たことはあって、ほんと分かんないなと思ってたんですけど。

今:生で見ても分かんない?

津田:生っていう言い方はどうかとは思うんですが(笑)

今:ライブ、ですね(笑)

津田:でもなんかほんとに、見る側のほうも気を遣わなくて済むし、周囲の人に気を遣わせるんじゃないかって思い悩むお母さんの側にとってもいいですよね。

今:伴田さんもさすがに、目の前で授乳してるのを堂々と見る機会ってないですよね?

伴田:僕は初めて拝見したんですけど・・・「マジックショー」みたいですね。

全然おっぱいが見えなくて、だって本当に、吸っていらっしゃるんですよね?

赤ちゃんが「吸っていらっしゃる」っていうのも、変なんですけど(笑)

マジックを見ているみたいです!素晴らしいです!

今:「授乳ショー」だなんていうと、知らない人は「何それは?」「いかがわしいことするの?」みたいに思う人もいらっしゃるんですけど、僕らいま、授乳を見ていても、男でも女でも見る側のばつの悪さがない。

授乳しているのがまるで分からない、そうは見えないのに「授乳“ショー”」と言わなければならない、その矛盾みたいなものはあるんですけど。

伴田:でもやっぱり、吸い終わるとすごい平和な顔に戻るんですね。

村上:みんなほんとに。

津田:満足げな。

村上:満足げですよね。

伴田:飲み終わると、やっぱり眠くなるものなんですか?

村上:眠くなる子が多いですね。授乳自体も顎とか舌をしっかり使うので疲れますし、お腹がいっぱいになって、あとクチュクチュして気持ちよくなって寝ちゃうっていうのはあります。

今:僕は、友だちが出産するというタイミングで、授乳服をプレゼントすることにしているんですよ。値ごろ感がいいんです、ちょうど高過ぎず、安過ぎず。だから若いママやパパを含めて、プレゼントする習慣をつくるといいんじゃないかな。スタートだけでも授乳服を使ってもらうと、育児がもうちょっと楽しくなるんじゃないかなって。

村上:大抵、出産のお祝いだと赤ちゃんのものになりますけれども、一番苦労しているお母さんにプレゼントがゆかないんですよね。例えばこんなところから、お母さんを大事にしてほしいなって思いますね。

 

ママ&赤ちゃんも周りも追い詰められない社会を!目指せ“おっぱい”のダイバーシティ

今:では第1回「全日本おっぱいサミット」の締めくくりとして、皆さんが思い描く“おっぱい”の未来をお聞かせいただけますか。

津田:「公共の場での授乳」はこうやって社会問題化して、議論にもなって。

でもやっぱり、社会を変えてゆくって、ある程度時間がかかるじゃないですか。

意識を変えてゆくのって時間がかかっちゃうものなんですけど、授乳服のようなある種の技術みたいなものが、そのスピードを速めてゆくことはできるので、その両輪で進めてゆくんだろうなと思いましたね。

伴田:僕も授乳服には驚きましたが、こういう便利なものが出てきたと同時に、僕が原風景として見たような、普通に、普通の服でおっぱいをパッとあげられる環境がまたあってもいいかな、と。

選択肢っていうかね、そういったものが増えてゆくといいのではないでしょうか。

村上:お腹が空いていなくても、眠い時にチューチュー吸いたがる赤ちゃんは多いですよね。ご飯や栄養の意味だけじゃなくて、甘えたいとか、ちょっとのどが渇いたからちょっとだけ飲みたいとか、眠る時に欲しいとか。

そういういろいろなシチュエーションに対応できるおっぱいって、子育てにぜひ活用させたいすごい“武器”ですよね。

今日「授乳ショー」にご協力くださった皆さんには本当に「ありがとうございます!」なんですけれども、やっぱりちょっと静かで、お母さんとリラックスできて、安心できる場所の方が、お互いに授乳はしやすいですよね。

もちろん田んぼの横で、みんな知っている人に囲まれて安心できる、というのもいいと思います。

ママと赤ちゃんにとって楽で心地よいおっぱい、また「公共の場での授乳」の選択肢、例えばソリューションとしての授乳服といった情報については、社会はもちろん、直接の当事者であるママの間でもかなり、温度差がある。

知っている人は、たしかに知っている。

でも外来や母乳110番などの相談の現場では、知らない人もたくさんいて、しかも辛い授乳をしている人が結構な数になるというのは、すごく感じます。

このあたりの差を、授乳服を使うもよし、ほかの解決策を選ぶもよし、みんながそれぞれ好きなやり方で、なんとかできないかなぁ、してゆきたいなぁって思っています。

ーーそして来場者とのトークセッションを経て、老いも若きも、男性も女性も、子どもがいない人もいる人も大いに盛り上がった「全日本おっぱいサミット」は幕を閉じたのでした。

最後に、ご来場者から寄せられたご意見・ご感想をいくつかご紹介しましょう。

ママ(授乳中):「公共の場での授乳」にしても、ベビーカーでの電車利用にしても、子育て問題が「炎上」していると聞くと、よく分からない恐怖感みたいなものがあったんですが、そういう論争から大きく社会が動くこともあるんですね。不安が完全に拭えたワケじゃないけど「炎上=怖いモノ」とだけ感じていたのが、見方が変わったかもしれません。

女性:「赤ちゃんにも人権がある」というのは、恥ずかしながら盲点でした。自分に子どもはいませんが、赤ちゃんをひとりの人として考える視点も大切だと思いました。

ママ(授乳中):男性にとって、おっぱいが魅力的なのは知っていましたが、まさかアレほどまでとは!性的な視線に困ることに変わりはありませんが、却って「そういうものだ!」って思い切れたことで対策は立てやすくなったかも。もちろん、男性もいろいろなんでしょうけど・・・女性には計り知れない憧憬っていうのが、あるんですね(笑)

男性:僕はほんと「興味本位」で見に来たんですが、勉強になりました。おっぱいって、子どもを育てているお母さんってすごいな、と。パパになる前に、知っておくことができてよかったと思います。

パパ:僕には3人子どもがいて、妻は授乳服を着ていましたが、外では授乳ケープも付けてました。そのことについて今まで特に気にしたこともありませんでしたが、今日「授乳ショー」を拝見して、ケープとかって社会と親子の間の「意識の壁」なのかもしれない、と。その「壁」の存在に気づかされました。

女性:私は、友人が目の前で授乳を始めてショックを受けたことがあります。いまも子どもはいないので、正直にいえば授乳服でも「授乳中」ということに気づいた時点で、ばつの悪さは感じます。ただママと赤ちゃんにとっての必要性や、生物としての仕組みもよく理解できたので、心の中でモヤモヤしつつもどう振る舞ったらよいのか、また自分が母親になったらどうだろう等々、考えるきっかけになったというか、いい意味での「宿題」を持って帰れたかもしれません。

――ハピママ*特集「専門家と考える 公共の場での授乳問題」をきっかけに開催された「全日本おっぱいサミット」、如何だったでしょうか。

「あなたの知らない“おっぱい”の世界」を、垣間見ることができたでしょうか。よかったら皆様も、率直なご感想をお寄せください。あなたのご意見が、おっぱいの未来を変えるかもしれません。

ちなみにまだしばらく、特集記事の配信は続きます。

みんなが愛する“おっぱい”を互いに認め合えるダイバーシティ(多様性)社会を目指して、これからもこの課題を追いかけてゆきます。どうぞご期待ください!

15の春から中国とのお付き合いが始まり、四半世紀を経た不惑+。かの国について文章を書いたり絵を描いたり、翻訳をしたり。ウレぴあ総研では宮澤佐江ちゃんの連載「ミラチャイ」開始時に取材構成を担当。産育休の後、インバウンド、とりわけメディカルツーリズムに携わる一方で育児ネタも発信。小学生+双子(保育園児)の母。