「ここだけ」に集中できる、雑念のない時間

半信半疑だった筆者だが、先生の指示通りに進めていくと、みるみるモネの絵に近づいていく。

先生の指示のペースもちょうどよく、途中で手持ち無沙汰になることも、置いていかれて焦ることもなかった。

自分の手によって、モネの名画が描かれていく。美味しいワインを飲むのも忘れて、熱中した。

「奥行きを出したいな」「もう少し光を足したいな」と思ったら、講師のアドバイスを元に、手を加えていく。

そう!中学生の頃にはなかったこの感覚!描きたかったものがちゃんと描ける!

絵の具を混ぜては、筆を走らせ、指でぼかしてみたりと、体と感性を総動員させていく。

黒崎侑美

気付けば目の前にある絵を作り上げることだけを考えていた。雑念がなく、頭の中に一本の真っすぐな道が伸びているような感覚。「噂のマインドフルネスってこの状態なのかもしれない!」とさえ感じた。

早稲田大学教授・熊野宏昭さんによれば、マインドフルネスとは、過去の失敗や未来への不安を感じている状態から抜け出し、心を今に向けた状態のことだそう。

私はまさに過去や未来に思考をふっ飛ばしがちな人間で、過去の出来事に関してひとり一人反省会をしたり、起こってもいないことを必要以上に案じてストレスを感じたりしてしまう。「今」を生きるのがとても苦手なのだ。

そんな私が、自然と「今ここ」だけに集中できている...。

慣れない作業で心地いい緊張感があったのも、「今」を生きる力添えをしてくれたように思う。

「絵を描く」という、自己肯定の作業

ワークショップの終盤、ふと我にかえり他の参加者の絵を見てみると、みんなで同じ絵を描いているのに、筆のタッチや色味がみんな違う。

「上手」や「下手」という物差しでは測れない、それぞれの「私らしさ」がキャンバスに現れていた。

絵を描く作業を通して、自分について気付くこともあった。

「私ってやっぱりくすんだ色が好みなんだな〜」とか「細かい作業は苦手だと思ってたけど、細かい絵を描くのは楽しいじゃん」とか、自覚していたことも、初めて気付いたこともあり感慨深い。

絵を描くことで自分らしさを再発見し、自分を投影した作品を大切に仕上げていく。それは、自分と向き合い、自分を大切にする練習のようにも思えた。

目まぐるしく過ぎていくい日々の中でも、こうした自分を見つめ直す時間を大切にしたいと、改めて思った。

絵に馴染みがない人にこそおすすめ

あっという間に2時間が過ぎ、絵が完成。

黒崎侑美

なんという達成感…!

絵なんて描けないと思っていた自分が、こんなに素敵な絵を描けるなんて...。

新たな自分を再発見できた嬉しさも混じり、思わず笑みが溢れた。描いた絵は持って帰ることができるので、インテリアとして飾るのもおすすめ。

楽しく絵を描いて、なんだかマインドフルな気分にもなれるワークショップ。忙しい毎日を生きる現代人の皆さんに、ぜひ絵を描いてみてほしい。ささくれだった心が癒されるかもしれません。

旅とゲストハウスと海外エンタメをこよなく愛するライター。主な情報収集分野はジェンダーとセクシュアリティ、ボディポジティブ、セルフラブ、メンタルヘルス、フェムテックなど。いつか憧れの作品に字幕をつけるべく映像翻訳の勉強中。